着想メトロ

アイデアとは、世界の捉え方を再構成することで新たな価値を獲得し、さらにそれを経験によって持続させる、一連のプロセスのこと。

『バケモノの子』の話

 僕は細田守監督の『時をかける少女』をみて以来彼の作品のファンなのだけど、昨月に公開された監督最新作『バケモノの子』も公開直後に劇場へと足を運びました。ネタバレが嫌な方は記事を読まないでください。

 

 自分の好きな監督なので他人の評価はもちろん気になる。そこでネットを介していろいろ大衆の意見を聞いたのだけど、どうやら大勢はマイナスのほうに傾いているようです。いわく

  • たくさん詰め込みすぎている
  • ヒロインいらなかった
  • 設定についての説明が足りない
  • 最後どうして九太が勝てたのかわからない

など、なるほどなあと思う見方も多かったが、こういう人もいい点はたくさん知った上でのこの評価なんだろうなと思う。

 僕自身の感想はというと、期待通りの晴れ晴れとした後味が残る映画でした。戦闘シーンの迫力も、描線を辿って行いけば明らかなように、非常に綿密に練られたものでした。また街の細部も非常に丁寧につくりこまれていました。これは前作でもそうでしたね。生物学者の友人が、映画に登場する花の名前がわかると言っていました。そういえば『サマーウォーズ』を観た僕の亡き祖父が、ヒロインの実家を観て『柱が細すぎる、あれじゃ支えられん』と言っていたのを思い出します。観る人が観ればわかるとうことなんですね。

 今回はフランスの友人と観に行ったのですが、その方は「熊徹の笑い方が魅力的だった」とおっしゃっていました。役所さんの声優としての仕事は素晴らしかった。

 それから熊徹が九太に剣の振り方を教えているシーンの話になった。そこで熊徹が「心の刀が大事」だと言っていたことを受けて、その方は日本のサムライを連想したそうです。僕はといえば、心の刀とはぶれない軸のことを言っているのだなあと思いました。一番自分に馴染んだ土俵といってもいい。一時的にはそこを離れたりはするけれど必ずいつかは帰ってくる精神のふるさとのようなものでしょうか。いろいろな含みのあるいい言葉だなあと思いました。

 この映画ではバケモノの世界(渋天街)と人間の世界(渋谷)が対照的に描かれていますが、現実世界においてでも、僕らにとってバケモノのような人間が住んでいる場所なんて身近にいくらでもありますよね。異なる文化をもつ二つの世界を行き来する主人公の生き様は、どの時代・場所でも見られる人間的な営みなのだと思います。

 それはそうとして、監督がインタビューの際に気になる発言をしているのをネットで見つけました。この映画を作るきっかけとして監督は、「子供というのは親だけでなくいろいろな人間に成長させられる」ことに気付いたことを挙げていたのです。でもこれって、子供だけにあてはまるものではないでしょう。実際僕だって、親だとか僕の専門(物理)の先生以外にも、幾人かの友人や、フランス語の先生や、数学の先生に日々いろいろなことを学んでいます。そこで監督の思いをもう少し人生に役立つ形に言い換えて

「人間というのは自分と異なる世界に住んでいる人間との交流によって成長する」

としておきましょう。こういう視点でもう一度映画を観たらもっと面白いのかも。