着想メトロ

アイデアとは、世界の捉え方を再構成することで新たな価値を獲得し、さらにそれを経験によって持続させる、一連のプロセスのこと。

アフィン空間とアフィン写像

モチベーション

 ベクトル空間\( \; E \; \)には基準となる原点\( \; O \; \)が存在し、すべてのベクトルはこの原点を始点とする。つまり各ベクトルとそのベクトルの終点は一対一に対応していて、この対応関係は原点の存在によって保障される。

 この原点を固定せず、流動的にしたものがアフィン空間である。原点を変えることはすなわち「基準」の変換であるから、「視点の切り換え」という可塑性を備えた空間だとも言える。個々の具体的な問題に応じて適当な原点を選択するという自然な行為のなかに、このアフィン空間の概念は立ち現れる。例を挙げよう。

 三次元ベクトル空間\( \; \mathbb{R}^{3} \; \)を考える。この三次元空間の中に、部分ベクトル平面\( \; F \; \)をとろう。もちろんこの平面はベクトル平面なのだから原点が属さなければならない(加法に関する単位元の存在)。この平面を構成する個々の点を、\( \; \mathbb{R}^{3} \; \)に属するベクトル\( \; \vec{v} \; \)によって平行移動することを考える。するとこの平面は別の平面\( \; \Pi_{\vec{v}} \; \)に変換されるだろう。この平面\( \; \Pi_{\vec{v}} \; \)は、\( \; \vec{v} \in F \; \)でない限り原点が属さない平面であるから、この意味でベクトル空間には成りえない。ところがもともとベクトル平面であったものを平行移動させたものなのだから、元のベクトル平面と何か密接な関係がありそうである。

 平面\( \; \Pi_{\vec{v}} \; \)には基準となる原点が存在しないので、平面を構成する個々の点は絶対的な位置関係を持たない。すなわちこの平面内の一点を選んだとき、それをその平面内に属するベクトルで表すことができない。ところが異なる二点を選んだときには、その相対的な位置関係を\( \; F \; \)に属するベクトルで表すことができる。この点を詳しく見てみよう。

 いま\( \; \Pi_{\vec{v}} \; \)に属する一点\( \; a \; \)を選ぶと、三次元空間内でこの平面を見下ろす者にとってはもちろん\[ a=x+\vec{v} \]とベクトル(の和)で表せる。ここで\( \; x \; \)はそれを\( \; \vec{v} \; \)で平行移動したとき点\( \; a \; \)に移るような\( \; F \; \)に属するベクトルである。ところがこの点を平面内のベクトルで表現しようとするとこれは不可能である。この平面には基準となる原点がなく、ベクトルの始点を選ぶことができないからだ。

 この平面内の別の点\( \; b \; \)を選んで、この点が\[ b=y+\vec{v} \]と表せるとすれば、この二点の差は\[ a-b=x-y \in F \]となって\( \; F \; \)のベクトルで表せる。つまり平面\( \; F \; \)上で生きる者にとっては、\( \; a, \; b \; \)という点それぞれはベクトルで表せないものの、その差は平面内のベクトルとして認識できるということになる。だから個々の点の相対的な位置関係は把握できるものの、それは絶対的ではない。原点が固定されていないというときはこういう状況をいうのである。実はこの平行移動された平面をアフィン空間(正確には部分アフィン空間)というのである。すなわち(いまの状態では)アフィン空間はベクトル空間ではない。だがもともとベクトル平面であったのだから、ベクトル平面と成りえる潜在的可能性は持っている。これが実際可能であることを示そう。

 いまからやろうとするのは、閉じた体系であるひとつのベクトル平面を平行移動したものが、どうやって再び閉じた体系に成り得るのか、そしてこの二つの閉じた体系を結ぶ関係は何なのか、という点を明らかにすることである。

 三次元ベクトル空間の住人が、\( \; \Pi_{\vec{v}} \; \)上に住む者の営みを観察していると、「どうやら平面上のベクトル計算はその平面内で閉じているらしい」ということがわかったとしよう。これはおかしい。というのも三次元の住人からしたら、平面上の二点\( \; a, \; b \; \)を足した結果は、特殊な場合(つまり\( \; \vec{v}\in F \; \))を除いて平面の外へ飛び出してしまい、平面上の観測者からは認識不可能なはずだからだ。そこで三次元の者はこの平面上の者に「\( \; a \; \)をベクトルで表せるか」と問う。すると「表せる」と答えた。「では基準としている点があるのか」と訊ねると「ここだ」といって点\( \; c \; \)を指したとしよう。そこで三次元の住人は、平面上の住人が原点\( \; O \; \)とは異なる点を基準にした、異なる閉じた体系を成していることに気づく。

 いま\[ a=x+\vec{v}, \;\;\; b=y+\vec{v},\;\;\;  c=z+\vec{v} \]と表せているとすれば、平面上の住人は空間内の住人と異なる演算を用いていることになる(異なるといったのは空間からみて、ということであって平面上の人からすればそれは空間内の人と同じ演算をしていることになる)。すなわち\[ \vec{v}=c-z \]から\[ \begin{cases} a+b = (x+c-z)+(y+c-z) \equiv (x+y-2z)+c, \\ ka=k(x+c-z)\equiv k(x-z)+c\end{cases} \]というベクトル空間の構造を持っているということになる。これは点\( \; c \; \)を原点とみなしているということに外ならない。ただし注意しなければならないのは、この構造が点\( \; c \; \)に依存しているという事実だ。ここに原点の恣意性があるのであって、ベクトル空間から絶対的な基準をとり除いた「中性な」状態を実現しているのがアフィン空間なのだ。ただし一度特別な点(上述の例では点\( \; c \; \))を固定すると、空間内にいる者にとって平面\( \; \Pi_{\vec{v}} \; \)は疑似的にベクトル平面を成しているといえるわけだ。

 このように「基準というものの相対性」を考慮したいという動機があって、アフィン空間という概念が生み出された。視点の切り換えが自由にできることは、問題を解く側に都合がいい舞台へと持ちこむのに非常に便利である。

 ☞アフィン空間とアフィン写像

 \( E \; \)を、体\( \; K \; \)をスカラー係数とするベクトル空間、\( \; a, \; \vec{v} \in E \; \) とする。写像\( \; t_{\vec{v}} \; \)を\[ t_{\vec{v}}: \; a \mapsto a+\vec{v} \]で定義する。この写像を方向ベクトル\( \; \vec{v} \; \)の平行移動と呼ぶ。\( \; \vec{v}=0 \; \)でないとき、写像\( \; t_{\vec{v}} \; \)は線形写像ではないことに注意しよう。

定義1. \( F \; \)を\( \; E \; \)の部分ベクトル空間とするとき、\( \; F \; \)の\( \; t_{\vec{v}} \; \)による像\[ t_{\vec{v}}(F)=\{b\in E \; | \; b=a+\vec{v}, \; a \in F\} \equiv \vec{v}+F \]を方向\( \; F \; \)の部分アフィン空間という。

 もちろん\( \; E \; \)は\( \; E \; \)それ自身を方向とするアフィン空間である。というのも\( \; t_{\vec{v}}(E)=E \; \)だからだ。

 アフィン空間\( \; \mathcal{A}=t_{\vec{v}}(F) \; \)は一般にベクトル空間ではないことに注意しよう。というのも和やスカラー乗法に関して閉じていないからだ。ところがここに前述したようなベクトル空間構造を持ちこむことができる。いま\( \; \mathcal{A} \; \)を方向\( \; F \; \)の部分アフィン空間とする。一点\( \; a \in \mathcal{A} \; \)を選べば\[ t_{a}(F)=\mathcal{A}. \]あとは全単射である\( \; t_{a} \; \)を通して\( \; F \; \)の空間構造を\( \; \mathcal{A} \; \)に導入すればよい。すなわち\[ b=a+x, \;\;\; c=a+y, \;\;\; x, \; y \in F \]のとき\[ \begin{cases} b+c=(x+y)+a, \\ kb=kx+a. \end{cases} \]この演算によって\( \; \mathcal{A} \; \)はベクトル空間となる。このベクトル空間を\( \; a \; \)での\( \; \mathcal{A} \; \)のベクトル空間化という。

定義2. \( E, \; E' \; \)を\( \; K \; \)上のベクトル空間とする。アフィン写像とは写像\( \; g : \; E \longrightarrow E' \; \)の内で\[ g=t_{a} \circ f \]の形をしたものをいう。ここで\( \; f \; \)は\( \; E \; \)から\( \; E' \; \)への線形写像であり、\( \; a \in E' \; \)とする。つまり\[ g(x)=t_{a}(f(x))=a+f(x). \]もし\( \; a \; \)がゼロでないのなら、\( \; g \; \)は線形でないことに注意しよう。 

 任意のアフィン写像は\( \; g=t_{a}\circ f \; \)の形に一意に表せる。実際\[ g=t_{a}\circ f=t_{a'}\circ f' \]とかけたとすると、任意の\( \; x \in E \; \)に対し、\[ a+f(x)=a'+f'(x). \]\(x=0 \; \)とすれば\( \; a=a' \; \)が得られるので、これより任意の\( \; x \in E \; \)に対し\( \; f(x)=f'(x) \; \)となる。

 この\( \; f \; \)を\( \; g \; \)に伴う線形写像と呼び、\( \; a \; \)を平行移動ベクトルと呼ぶ。例えば\[ g: \; (x_{1}, \; x_{2}, \; x_{3}) \mapsto (2x_{1}-x_{2}+3,\; -x_{1}+x_{3}+2, \; x_{2}-x_{3}) \]とおけばこれはアフィン写像であって、平行移動ベクトルは\( \; a=(3, \; 2, \; 0) \; \)、\( \; g \; \)に伴う線形写像\( \; f \; \)は\[ f: \; (x_{1}, \; x_{2}, \; x_{3}) \mapsto (2x_{1}-x_{2}, \; -x_{1}+x_{3}, \; x_{2}-x_{3}) \]である。もちろんこのとき\( \; E=E'=\mathbb{R}^{3} \; \)となる。

 この例をみてわかるように、アフィン写像はベクトル\( \; x \; \)の像が非斉次の連立一次方程式によって特徴づけられそうである(線形写像は斉次連立一次方程式によって特徴づけられていたから、アフィン写像はその一般化とも考えられる)。

 また\( \; f(0)=0 \; \)から\( \; g(x)=g(0)+f(x) \; \)とも表せる。よって

「アフィン写像写像\( \; x \mapsto g(x)-g(0) \; \)が線形写像になるという性質をもった写像\( \; g : \; E \longrightarrow E' \; \)である」――(★)

ということもできる。

補題3. アフィン写像は部分アフィン空間を部分アフィン空間に移す。

証明。\( g=t_{a}\circ f \; \)をアフィン写像、\( \; \mathcal{A}=t_{b}(F) \; \)を方向\( \; F \; \)の部分アフィン空間とする。すると\[ \begin{eqnarray*} g(\mathcal{A}) &=& (t_{a}\circ f)(t_{b}(F))=\{x \in E \; | \; x=a+f(b+y), \; y \in F \} \\ &=& \{x \in E \; | \; x=a+f(b)+f(y), \; y \in F\}=t_{a+f(b)}f(F)=t_{g(b)}\circ f(F). \end{eqnarray*} \]よって\( \; g(\mathcal{A}) \; \)は\( \; f(F) \; \)を方向とする部分アフィン空間である。

補題4. \( E \; \)の部分アフィン空間は\[ \mathcal{A}=\{x \in E \; | \; f(x)=a, \; f \in \mathcal{L}(E, \; E'), \; a \in E' \} \]の形の集合である(ここで\( \; \mathcal{L}(E, \; E') \; \)は\( \; E \; \)から\( \; E' \; \)への線形写像全体の集合を表す)。

証明。実際、連立一次方程式系\( \; f(x)=a \; \)の解集合は、\( \; \mathrm{Ker}f \; \) を方向とする部分アフィン空間である:\[ \mathcal{A}=x_{0}+\mathrm{Ker}f, \; f(x_{0})=a. \]もし\( \; f(x_{0})=a, \; f(u)=0 \; \)を満たす\( \; x_{0}, \; u \in E \; \)によって\( \; x=x_{0}+u \; \)と表せているとすれば、\( \; f(x)=f(x_{0})+f(u)=a \; \)となるので\[ x_{0}+\mathrm{Ker}f \subset \mathcal{A}. \]逆に\( \; x \in \mathcal{A} \; \)とする\( \; f(x)=a \; \)の特解を\( \; x_{0} \; \)とすれば、\( \; f(x-x_{0})=f(x)-f(x_{0})=0 \; \)となるので\( \; x-x_{0} \in \mathrm{Ker}f \; \)、すなわち\( \; x \in x_{0}+ \mathrm{Ker}f \; \)がわかる。よって\[ x_{0}+\mathrm{Ker}f \supset \mathcal{A}. \]

 一方、\( \; \mathcal{A} \; \)を\( \; F \; \)を方向とする部分アフィン空間\( \; \mathcal{A}=t_{b}(F) \; \)とし、その核が\( \; F \; \)であるような線形写像\( \; f \; \)を考えよう。このとき\[ \mathcal{A}=b+F=b+\mathrm{Ker}f=\{x=b+y \; | \; y \in \mathrm{Ker}f\} \]となるので\( \; x \in A \; \)であることと\( \; f(x)=a \; \)であることは同値である。ここで\( \; a=f(b) \; \)とおいた。

補題5. \( E \; \)を\( \; E \; \)自身に移すような、全単射であるアフィン写像全体の集合は群(写像の合成に関して)を成す。この群を\( \; E \; \)のアフィン群と呼び\( \; \mathrm{GA}(E) \; \)と記す。

証明。まずアフィン写像全単射であることと、そのアフィン写像に伴う線形写像全単射であることとは同値であることに注意しよう。いま\( \; h, \; h' \; \)を全単射なアフィン写像とする:\[ h(x)=a+f(x), \; h'(x)=b+g(x). \]このときもちろん\( \; f, \; g \; \)は全単射な線形写像である。示したいことは、写像を合成した結果がまた全単射なアフィン写像になることと、ある全単射なアフィン写像の逆写像もまたアフィン写像であることである。まず\[ h \circ h'(x)=h(b+g(x))=a+f(b)+f\circ g(x) \]であって、\( \; f \circ g \; \)は仮定から全単射であるから、上式はアフィン群に属する二つのアフィン写像の合成写像もまたこの群に属すことを示している。

 一方\[ \begin{eqnarray*} h^{-1}(x)=y &\Leftrightarrow& x=h(y) \Leftrightarrow x=a+f(y) \Leftrightarrow y=f^{-1}(x-a) \\  &\Leftrightarrow&  y=-f^{-1}(a)+f^{-1}(x) \end{eqnarray*} \]だから\[ h^{-1}=t_{-f^{-1}(a)}\circ f^{-1} \in \mathrm{GA}(E). \]

Barycenter(重心)

  • bary-という接頭辞はギリシャ語で「重い」を意味する。

 部分アフィン空間は和に関して一般に閉じていないが、「合成重心」と呼ばれるある種の和に関しては閉じている。この特性はまた部分アフィン空間やアフィン写像を特徴づけるのに使える。以下ではそれを見ていこう。

定義6. \( \mathcal{A} \; \)を\( \; E \; \)の部分アフィン空間とする。また\[ \begin{cases}a_{1}, \; a_{2},\ldots , \; a_{p} \in \mathcal{A}, \\ t_{1}, \; t_{2}, \ldots , \; t_{p} \in K, \\ t_{1}+t_{2}+\ldots +t_{p}=t \neq 0 \end{cases} \]とするとき、点\[ G=\dfrac{1}{t}(t_{1}a_{1}+t_{2}a_{2}+\ldots+t_{p}a_{p})  \]を、係数\( \; t_{1}, \; t_{2}, \ldots, \; t_{p} \; \)を割り当てられた点\( \; a_{1}, \; a_{2}, \ldots, \; a_{p} \; \)の重心という。

 \( \mathcal{A}=t_{a}(F) \; \)とすれば、\( \; a_{i}=x_{i}+a, \; x_{i} \in F \; \)とかけるので\[ G=\dfrac{1}{t}\sum_{i=1}^{p}t_{i}(x_{i}+a)=a+\dfrac{1}{t}(t_{1}x_{1}+\ldots+t_{p}x_{p}) \in \mathcal{A} \]がわかる。実はこの逆も言える:

補題7. \( E \; \)の部分集合\( \; \mathcal{A} \; \)は、合成重心に関して閉じている(有限の\( \; p \; \)に対する重心の集合がすべて\( \; \mathcal{A} \; \)に属す)とき、またそのときに限り部分アフィン空間となる。

証明。合成重心に関して\( \; \mathcal{A} \; \)が閉じているとき、\( \; \mathcal{A} \; \)が部分ベクトル空間\( \; F \; \)の平行移動であることを示せばよい。\( \; a_{0} \in \mathcal{A} \; \)をひとつ固定し、\( \; F\equiv t_{-a_{0}}(\mathcal{A}) \; \)が\( \; E \; \)の部分ベクトル空間であることを示そう。\( \; x=a-a_{0} \in F \; \)とおくと\[ kx=ka-ka_{0}. \]仮定により\( \; a, \; a_{0} \; \)の、対応する係数がそれぞれ\( \; k, \; 1-k \; \)である重心は\( \; \mathcal{A} \; \)に属す:\[ b=ka+(1-k)a_{0} \in \mathcal{A}. \]よって\( \; ka_{0}=ka+a_{0}-b, \; b\in \mathcal{A} \; \)が成りたつ。これから\[ kx=ka-ka-a_{0}+b=b-a_{0} \in F. \]すなわち\( \; F \; \)はスカラー乗法に関して閉じている。

 同様にして、\( \; x=a-a_{0}, \; y=a'-a_{0} \; \)が\( \; \mathcal{A} \; \)に属しているとすると\[ x+y=a+a'-2a_{0}=(a+a'-a_{0})-a_{0}. \]\( a+a'-a_{0} \; \)は係数\( \; 1, \; 1, \; -1 \; \)が伴う点\( \; a, \; a', \; a_{0} \; \)の重心となっているので、仮定より\( \; \mathcal{A} \; \)に属す。すなわち\( \;F \; \)は加法に関しても閉じていることがわかった。

補題8. \( E, \; E' \; \)をベクトル空間とする。写像\( \; g: \; E \longrightarrow E' \; \)は、それが任意の点の組による重心を、個々の点の像の、同じ係数をもつ重心に写像する(これを重心を保存するという)とき、またそのときに限ってアフィン写像となる。このためには\[ \begin{cases} g(t_{1}a_{1}+\ldots+t_{p}a_{p})=t_{1}g(a_{1})+\ldots+t_{p}g(a_{p}), \; \forall a_{1}, \ldots, \; a_{p} \in E, \; \forall t_{1}, \ldots, \; t_{p} \in K, \\  t_{1}+\ldots+t_{p}=1 \end{cases} \]であることが必要十分である。

証明。アフィン写像が重心を保存するのは明らかだろう。実際\( \; g=t_{a} \circ f \; \)とおくと\[ \begin{eqnarray*} g(G) &=& t_{a}\left [ \dfrac{1}{t}(t_{1}f(a_{1})+\ldots+t_{p}f(a_{p}) \right ]=a+\dfrac{1}{t}(t_{1}f(a_{1})+\ldots+t_{p}f(a_{p})) \\ &=& \dfrac{1}{t}(t_{1}(a+f(a_{1}))+\ldots+t_{p}(a+f(a_{p})))=\dfrac{1}{t}(t_{1}g(a_{1})+\ldots+t_{p}g(a_{p})). \end{eqnarray*} \]

 逆に\( \; g \; \)が重心を保存すると仮定すれば、任意の\( \; a_{1}, \ldots, \; a_{p} \in E \; \)と\( \; t_{1}, \ldots, \; t_{p} \in K \; \)で\( \; t_{1}+\ldots+t_{p}=1 \; \)を満たすようなものに対し、\[ g(t_{1}a_{1}+\ldots+t_{p}a_{p})=t_{1}g(a_{1})+\ldots+t_{p}g(a_{p}) \]が成り立っている。\( \; c=g(0) \; \)とおくと、前述の(★)によって\( \; g \; \)は\( \; f(x)=g(x)-c \; \)で定義される写像\( \; f \; \)が線形であるとき、またそのときに限ってアフィン写像となる:\[ \begin{cases} g(kx)=kg(x)+(1-k)c, \\ g(x+y)=g(x)+g(y)-c. \end{cases} \]ところが\( \; kx \; \)は合成重心の形に表せる:\[ kx=kx+(1-k)0. \]よって\[ g(kx)=g(kx+(1-k)0)=kg(x)+(1-k)g(0)=kg(x)+(1-k)c. \]同様にして\[ g(x+y)=g(-0+x+y)=-g(0)+g(x)+g(y)=-c+g(x)+g(y). \]

ユークリッド空間の等長写像

  \( E \; \)をユークリッド空間とするとき、この空間における距離を\[ \mathrm{d}(a, \; b)=\|a-b\| \equiv \langle a-b, \; a-b \rangle^{1/2} \]で定義する。ここで\( \; \langle \; , \; \rangle \; \)はベクトルのスカラー積である。

定義9. \( E \; \)をユークリッド空間とする。等長写像とは、写像\( \; g : E \longrightarrow E \; \)(必ずしも線形写像とは限らない)で、\[ \mathrm{d}(g(a), \; g(b))=\mathrm{d}(a, \; b), \; \forall a, \; b \in E \]が成りたつものをいう。言い換えると\[ \|g(a)-g(b)\|=\|a-b\|, \; \forall a, \;b \in E. \]任意の直交写像\( \; g \; \)は明らかに等長写像である。というのも、このとき\( \; g \; \)は線形写像でもあるので\[ \|g(a)-g(b)\|=\|g(a-b)\|=\|a-b\|. \]ただしこの逆は真ではない。例えば平行移動は等長写像であるが直交写像ではない。平行移動は線形写像でないからである。次の定理によって、等長写像が平行移動と直交写像の合成によって得られることがわかる。

定理. ユークリッド空間の任意の等長写像はアフィン写像であって、\[ g(x)=f(x)+a, \; a\in E, \; f \in \mathrm{O}(E) \]の形で書ける。ここで\( \; \mathrm{O}(E) \; \)は\( \; E \; \)の直交写像全体の集合である。とくに\( \; E \; \)の等長写像全体の集合\( \; \mathrm{Is}(E) \; \)はアフィン群\( \; \mathrm{GA}(E) \; \)の部分群である。

証明。まず次の補題を証明する。

補題10. \( f \; \)を、\( \; 0 \; \)を\( \; 0 \; \)に移す等長写像とすると\( \; f \in \mathrm{O}(E) \; \)。

証明。事実\[ \|f(a)\|=\|f(a)-0\|=\|f(a)-f(0)\|=\|a-0\|=\|a\|. \]また恒等式\[ \|x+y\|^{2}+\|x-y\|^{2}=2\|x\|^{2}+2\|y\|^{2} \]から\[ \begin{eqnarray*} \|f(a)+f(b)\|^{2} &=& -\|f(a)-f(b)\|^{2}+2(\|f(a)\|^{2}+\|f(b)\|^{2}) \\ &=& -\|a-b\|^{2}+2(\|a\|^{2}+\|b\|^{2})=\|a+b\|^{2} \end{eqnarray*} \]を得る。ゆえに\[ \begin{eqnarray*} 2\langle f(a), \; f(b) \rangle &=& \|f(a)+f(b)\|^{2}-\|f(a)\|^{2}-\|f(b)\|^{2} \\ &=& \|a+b\|^{2}-\|a\|^{2}-\|b\|^{2}=2\langle a, \; b \rangle. \end{eqnarray*} \]このことから\( \; f \; \)がスカラー乗法を保存することがわかった。あとは\( \; f \; \)が線形写像であることを示せばよい。直交基底のひとつを\( \; \{e_{i}\} \; \)とする。すると\( \; f(e_{i}) \; \)は線形独立である。というのも\[ \begin{eqnarray*} \sum_{i=1}^{n}k_{i}f(e_{i})=0 \Longrightarrow 0 &=& \left \langle \sum_{i=1}^{n}k_{i}f(e_{i}), \; e_{j} \right \rangle \\ &=& \sum_{i=1}^{n}k_{i}\langle e_{i}, \; e_{j} \rangle =k_{j} \end{eqnarray*} \]から\( \; f(e_{i}) \; \)は直交基底を成す。最後に\[ \begin{eqnarray*} \langle f(ka+mb)-kf(a)-mf(b), \; f(e_{i}) \rangle &=&\langle f(ka+mb), \; f(e_{i}) \rangle -k\langle f(a), \; f(e_{i}) \rangle -m \langle f(b), \; f(e_{i}) \rangle \\ &=& \langle ka+mb, \; e_{i} \rangle-k\langle a, \; e_{i} \rangle -m \langle b, \; e_{i} \rangle =0 \end{eqnarray*} \]となるので、\( \; f(e_{i}) \; \)が直交基底であることから結局\[ f(ka+mb)=kf(a)+mf(b). \]

以上の補題を用いて定理を証明しよう。\( \; g \in \mathrm{Is}(E) \; \)とすれば\[ t_{-g(0)}\circ g(0)=g(0)-g(0)=0. \]だから\( \; f \equiv t_{-g(0)} \circ g \; \)は\( \; 0 \; \)を\( \; 0 \; \)に移す等長写像である。よって補題10により\( \; f \in \mathrm{O}(E) \; \)で、\[ g=t_{a} \circ f, \; a=g(0) \]すなわち\[ g(x)=f(x)+a \]と表せる。