着想メトロ

アイデアとは、世界の捉え方を再構成することで新たな価値を獲得し、さらにそれを経験によって持続させる、一連のプロセスのこと。

射影定理とSchmidtの直交化、そして無限次元Hilbert空間における完全正規直交系の存在定理

射影定理とは、Hilbert空間\( \; \mathcal{H} \; \)の閉部分空間\( \; \mathcal{M} \; \)があるときに、任意の\( \; u \in \mathcal{H} \; \)を、\( \; \mathcal{M} \; \)に属する成分\( \; u_{1} \; \)と、それに直交する成分\( \; u_{2} \; \)に分解することができて、さらにそれが一意であることを保証してくれる定理である。

 

 とりあえずはこの定理を認めよう。

 ここでは、無限次元Hilbert空間に任意の\( \; n \; \)に対して\( \; \{ \psi_{1},\ldots, \; \psi_{n} \} \; \)が線形独立であるような系列\( \; \{\psi_{k}\} \; \)があるときに、そこから正規直交系\( \; \{ \phi_{k} \} \; \)を順次つくりだしていく方法を提示してくれるSchmidtの直交化について述べたい。

 そしてそのあとに、可分な無限次元Hilbert空間には可算個の要素からなる完全正規直交系が存在することを示す。ここで可分であるとは、Hilbert空間\( \; \mathcal{H} \; \)の可算部分集合\( \; \mathcal{D} \; \)で、\( \; \mathcal{H} \; \)で稠密なものが存在するということである。つまり任意の\( \; u \in \mathcal{H} \; \)を\( \; \mathcal{D} \; \)の要素で近似できて、さらに\( \; \mathcal{D} \; \)が可算集合、すなわち番号を振り分けていける集合であるということだ。

 さて、それではまず次の補題a(Schmidtの直交化)を証明しよう。

補題a(Schmidtの直交化). \( \; \{ \psi_{k} \}_{k=1,\; 2,\ldots} \; \)がHilbert空間\( \; \mathcal{H} \; \)の要素の集合で、任意の\( \; n \; \)に対して\( \; \{\psi_{1},\ldots, \; \psi_{n} \} \; \)が線形独立であるとすると、\( \; \mathcal{H} \; \)の正規直交系\( \; \{ \phi_{k} \}_{k=1, \; 2,\ldots} \; \)で次の性質(1),(2)を満たすものが存在する。すなわち

(1). 任意の\( \; n \; \)に対して\( \; \phi_{n} \; \)は\( \; \psi_{1},\ldots, \; \psi_{n} \; \)の線形結合として表せる。

(2). 任意の\( \; n \; \)に対して\( \; \psi_{n} \; \)は\( \; \phi_{1},\ldots, \; \phi_{n} \; \)の線形結合として表せる。

したがって任意の\( \; n \; \)に対して\( \; \{\psi_{1},\ldots, \; \psi_{n} \} \; \)の生成する部分空間と\( \; \{\phi_{1},\ldots, \; \phi_{n} \} \; \)の生成する部分空間は一致する。

証明。\(\mathcal{M_{n}} \; \)を\( \; \{\psi_{1},\ldots, \; \psi_{n} \} \; \)が生成する部分空間とすると、\( \; \mathcal{M_{n}} \; \)は有限次元ノルム空間を生成するから完備、したがって閉部分空間となることに注意する。すると射影定理により\( \; \psi_{n} \; \)を、\( \; \mathcal{M_{n-1}} \; \)に属する成分\( \; \psi_{n}^{(1)} \; \)と、それに直交する成分\( \; \psi_{n}^{(2)} \; \)に分解することができる:\( \; \psi_{n}=\psi_{n}^{(1)}+\psi_{n}^{(2)}. \; \)そこで\( \; \phi_{n}'=\psi_{n}-\psi_{n}^{(1)}=\psi_{n}^{(2)} \; \)とおくと、\( \; \|\phi_{n}'\| \neq 0 \; \)である。というのももしゼロであるとすると\( \; \psi_{n} \in \mathcal{M_{n-1}} \; \)となるが、これは\( \; \{ \psi_{1},\ldots, \; \psi_{n} \} \; \)が線形独立であることに矛盾する。そこで\[ \phi_{n}=\dfrac{\phi_{n}'}{\|\phi_{n}'\|} \]

とおくと明らかに\( \; \|\phi_{n}\|=1 \; \)である。いま\( \; n>n' \; \)ならば\( \; (\phi_{n}, \; \phi_{n'})=0 \; \)であることを示そう。まず任意の\( \; n \; \)に対して\( \; \phi_{n} \in \mathcal{M_{n}} \; \)である。実際\( \; \psi_{n}-\psi_{n}^{(1)} \; \)において、\( \; \psi_{n}^{(1)} \in \mathcal{M_{n-1}} \; \)より\( \; \psi_{n}^{(1)} \; \)は\( \; \{\psi_{1},\ldots, \; \psi_{n-1} \} \; \)の線形結合で表せるから、\( \; \phi_{n}' \; \)が\( \; \{ \psi_{1},\ldots, \; \psi_{n} \} \; \)の線形結合で表せていることになり、\( \; \phi_{n}' \in \mathcal{M_{n}} \; \)である。\( \; \mathcal{M_{n'}} \subset \mathcal{M_{n-1}} \; \)であることと、\( \; \phi_{n} \; \)が定義より任意の\( \; v \in \mathcal{M_{n-1}} \; \)と直交することを用いれば、\[ \phi_{n'} \in \mathcal{M_{n'}} \Longrightarrow \phi_{n'} \in \mathcal{M_{n-1}} \Longrightarrow (\phi_{n'}, \; \phi_{n})=0. \]

よって\( \; \{ \phi_{k} \} \; \)は\( \; \mathcal{H} \; \)の正規直交系である。これで性質(1)の証明が済んだ。

さて次に(2)を\( \; n \; \)に関する数学的帰納法によって示す。

まず\( \; n=1 \; \)の場合から。性質(1)によって\( \; \phi_{1}=a \; \psi_{1} \; \)とかける。\( \; \|\phi_{1}\|=1 \; \)から\( \; a \neq 0 \; \)で、\( \; \psi_{1}=\phi_{1}/a \; \)と書ける。

いま\( \; n-1 \; \)まで性質(2)の証明が済んだと仮定しよう。性質(1)によって\[ \phi_{n}=a_{1}\psi_{1}+\ldots+a_{n}\psi_{n} \; \]

とかける。ここで\( \; a_{n}=0 \; \)とすると\( \; \phi_{n} \in \mathcal{M_{n-1}} \; \)となってしまうから\( \; a_{n} \neq 0 \; \)で、\[ \; \psi_{n}=\{ \; \phi_{n}-(a_{1}\psi_{1}+\ldots+a_{n-1}\psi_{n-1}) \; \}/a_{n} \; \]とできる。ところがいま帰納法の仮定によって\( \; \psi_{k}; \;\;\; (k=1, \; 2, \ldots , \; n-1) \; \)はそれぞれ\( \; \{ \phi_{1}, \ldots, \; \phi_{k} \} \; \)の線形結合で表せるのだから、\( \; n \; \)の場合にも性質(2)が示された。

以上によって性質(1),(2)を満たすような正規直交系の存在が明らかになった。では具体的にどのようにこの正規直交系を構成していくのかをみてみよう。

\( \{ \psi_{k} \} \; \)が与えられたとする。性質(2)によって\[ \psi_{n}^{(1)}=a_{1}\phi_{1}+\ldots+a_{n-1}\phi_{n-1} \]

とかける。以上をふまえて\( \; \psi_{n} \; \)と\( \; \phi_{j} \; \)の内積をつくってみると、\( \; \{ \phi_{k} \} \; \)が正規直交系であることによって\( \; j=1, \;2,\ldots, \; n-1 \; \)に対して\[ (\psi_{n},\; \phi_{j})= (\psi_{n}^{(1)}+\psi_{n}^{(2)},\; \phi_{j})=(\psi_{n}^{(1)},\; \phi_{j})=a_{j} \]

であることがわかる。したがって\[ \phi_{n}'=\psi_{n}-\psi_{n}^{(1)}=\psi_{n}-\sum_{j=1}^{n-1} \; (\psi_{n}, \; \phi_{j})\phi_{j}, \] \[ \phi_{n}=\dfrac{\phi_{n}'}{\|\phi_{n}'\|}. \]

この構成法をSchmidtの直交化と呼ぶ。

補題aを用いて次の定理2を証明しよう。

定理2. 可分な無限次元Hilbert空間には可算個の要素からなる完全正規直交系が存在する。

証明。\( \mathcal{H} \; \)で稠密な可算部分集合を\( \; \{ \psi_{n}' \} \; \)とする(可算であるから番号を振って並べられる)。いま次の手順によって系列\( \; \{ \psi_{n} \} \; \)を選別する。まず\( \; \psi_{1}'=0 \; \)であるならこれを省き、そうでないなら系列の第一番に加える。\( \; n>1 \; \)に対しては\( \; \psi_{n}' \; \)が\( \; \{\psi_{1},\ldots,\; \psi_{n-1} \} \; \)の生成する部分空間に属さないのならこれを\( \; \psi_{n} \; \)として系列の第\( \; n \; \)番に加えることにすれば、任意の\( \; n \; \)に対して \( \; \{\psi_{1},\ldots,\; \psi_{n} \} \; \)は線形独立である。このことを帰納法で示そう。\( \; n=1 \; \)のときは明らか。\( \; n-1 \; \)まで示すことができたとする。\( \; \sum_{j=1}^{n} \; a_{j}\psi_{j}=0 \; \)において、もし\( \; a_{n}=0 \; \)ならば帰納法の仮定によって\( \; a_{j}=0, \;\;\; (j=1,\; 2,\ldots, \; n-1) \; \)となって線形独立である。もしそうでないのなら\[ \psi_{n}=-\dfrac{\sum_{j=1}^{n-1} \; a_{j}\psi_{j}}{a_{n}} \]

とかけるが、これは\( \; \psi_{n} \; \)が\( \; \{\psi_{1},\ldots,\; \psi_{n-1} \} \; \)の生成する部分空間に属することを示すから、系列\( \; \{ \psi_{n} \} \; \)の選別方法から矛盾である。こうして\( \; n \; \)の場合も示された。

さて、この\( \; \{\psi_{n} \} \; \)に対して補題aを適用すれば、性質(1)をもつ正規直交系\( \; \{ \phi_{n} \} \; \)が得られる。

この正規直交系が完全であることを示すために、まず\( \; u \in \mathcal{H} \; \)が任意の\( \; n \; \)に対して\( \; (u, \; \phi_{n})=0 \; \)を満たすならば\( \; u=0 \; \)であることを証明する。性質(2)によって\[ \psi_{n}=a_{1}\phi_{1}+\ldots+a_{n}\phi_{n} \]

とかけるから\( \; (u, \; \psi_{n})=0. \; \)よって任意の\( \; \psi_{n}' \; \)に対しても\( \; (u, \; \psi_{n}')=0. \; \)

その稠密性によって\( \; \{ \psi_{n}' \} \; \)の部分列で\( \; u \; \)に収束するものが存在する。それを\( \; \{\psi_{i_{n}}' \} \; \)とすると、内積の連続性によって\[ (u,u)=\lim_{i_{n} \to \infty}(u, \; \psi_{i_{n}}')=0, \]

すなわち\( \; u=0 \; \)が示された。

いま\( \; \{ \phi_{n} \} \; \)の生成する部分空間を\( \; \mathcal{M} \; \)、そして\( \; v \in \mathcal{M^{\perp}} \; \)とすると、 任意の\( \; n \; \)に対して\( \; (v, \; \phi_{n})=0 \; \)であるから\( \; v=0 \; \)、したがって\( \; \mathcal{M^{\perp}}=\{0\} \; \)となり、射影定理によって\( \; u \; \)の分解は\( \; u \in \mathcal{M} \; \)そのものであることがわかった。よって正規直交系\( \; \{ \phi_{n} \} \; \)を用いて任意の\( \; u \in \mathcal{H} \; \)を\[ u=\sum_{j} \; (u, \; \phi_{j})\phi_{j} \]

と展開できることが示されたのである。よって正規直交系\( \; \{ \phi_{n} \} \; \)は完全である。これで定理2の証明が完了した。

参考:関数解析(黒田)