計算
研究活動をしておられる方は、普段から関連の論文や専門誌、学術書などを読まれると思います。
そのとき、特に自然科学において研究に従事している方々については、自分の研究に直接影響を与えるような重要性の高い事柄について、参考文献の計算結果を自分で再現し、内容についての吟味をする機会も少なくないでしょう。
なぜそのようなことをするかというと、論文や学術書には紙面の都合上、また筆者らの主張や論旨をなるべく明確にするよう、途中の詳細な導出過程や思考過程は省かれることが多いからです。そこで読み手に行間を埋める作業が必要になります。
特にそれが紙と鉛筆でなされる場合について、この記事で僕の実践している方法をお伝えします。これは計算のみではなく、文献の要所要所に考察を加えていく、といった作業にも応用可能です。要約すると以下のようになります:
- 上下に開くタイプの枚数が多い計算用ノートを用意
- 裏表を使わずまず表ページだけを使って最後まで進む
- ノートを裏返して逆に使う
- 個別の計算にはその日の日付をページの上端に記す
- ボールペンではなく鉛筆で、計算過程が追いやすいように
まず左右ではなく上下に開くタイプの計算用紙を用意します。紙は薄いタイプで、なるべく多くの枚数が綴じられているノートであるとなお良いです。なぜ上下に開くタイプを使っているかというと、前のページにある計算結果を次のページに進んだあとも参照しやすいからです。
また紙の裏表を始めからどちらも使うということはしません。まずは表だけを使って最後のページまで進んでしまいます。裏表をどちらも使うと、毎回ページが移る度に余白ページの位置が入れ換わるので煩わしいからです。
個々の計算に対して、それを実行した日付を計算を開始したページの上端に記載すると良いです。これによって計算の進展を時系列に沿って見返すことができるようになります。
さらに書く媒体に関して。以前はボールペンを使用していたのですが(消しカスを出すのが嫌だったのが理由です)、現在は簡素なシャープペン(monograph)を利用しています。やはり計算をしているとトンチンカンなミスをすることが多々あり、それらを紙上に残しておくと、計算の見通しを悪くしてしまうばかりか、後で見返すときにも計算を追いにくいのです。上から下へ、見通しのよい計算を展開することが肝要です。細かな計算は左右の余白にちょちょっとしておくのです。またこのような計算は消さずに残しておきます。こうしておくことで計算が連続的になるからです。
研究自体に関する計算もまったく同じ方法を適用することができます。目的別にノートを替えてもいいかもしれません。僕はすべての計算・考察を同一のノートに記しています。だからノートが変わればそれは前のノートを使いきったということであり、それだけの計算、考察をしたことを意味します。
主たる目的というのは人生の各段階において複数あるものだとは思いません。異なる目的に見えてもそれらは互いに関連しており、共通の何かで結びついている。そのときの興味・関心に貫かれていると思います。ですので同一のノートにまとめることは、それはそれでいいと思います。というのもこうすることで自分の研究活動全体の進捗を俯瞰することが容易にできるからです。
本筋からそれますので最後に簡単につけ足しておきますと、ある特定の問題を解く、あるいは議論しようとしているときは、ホワイトボードを使うことをおすすめします。面積が広いので大量の計算を見通すことができ、もういらない部分は消して新たなスペースを確保できる。使い勝手が非常にいいのです。もう計算できない、というところに来たらスマートフォンで写真をとって保存しておけば、あとで簡単に見返せます。
また下を向くのではなく前を向いて立って計算するのも、いい影響があるのではないかと最近思い始めています。思考が固定されないような感覚があります。自宅にも一台置いておきたいくらいです。テーブルやガラス張りの壁に直接計算できるようなカフェがあればいいのに、と常日頃思います。