着想メトロ

アイデアとは、世界の捉え方を再構成することで新たな価値を獲得し、さらにそれを経験によって持続させる、一連のプロセスのこと。

最小作用の原理(10)――平面上の相流

直線上の相流 

 直線上のベクトル場によって定まる微分方程式をどう解くかを学んだところで、今度はそれが相流という言葉を使ってどのように翻訳されるかをみてみる。

  • 特に簡単な例\[ (1) \;\;\; \dot{x}=kx, \;\;\; x \in {\bf R} \]から始めよう。初期条件\( \; \phi (0)=x_{0} \; \)を満たす解はもちろん\[ \phi (t)=e^{kt}x_{0} \]である。初期状態\( \; x_{0} \; \)を\( \; t \; \; \)時間後の解へと運ぶ「\( \; t \; \)時間経過写像」\( \; g^{t} \; : \; {\bf R} \longrightarrow {\bf R} \; \)を定義しよう:\[ g^{t}x_{0}=e^{kt}x_{0}. \]像の族\( \; \{g^{t}\} \; \)を方程式(1)、またはベクトル場\( \; {\bf v}=kx \; \)に伴う相流と呼ぶ。写像\( \; g^{t} \; \)は直線上の線形変換であることに注意しよう。実際、それは直線を\( \; e^{kt} \; \)倍に伸び縮みさせる変換になっている。任意の実数\( \; s, \; t \; \)に対して\[ g^{s+t}=g^{s}\circ g^{t}, \;\;\; g^{0}x=x \]が確かめられる。さらに\( \; g^{t}x \; \)は\( \; t, \; x \; \)それぞれに関して微分可能である。そのため相流\( \; \{g^{t}\} \; \)は微分同相写像の1-パラメータ群で、各微分同相写像は直線上の線形変換になっている線形空間上の微分同相写像の1-パラメータ群で、各微分同相写像が線形変換であるようなものを単に線形変換の1-パラメータ群と呼ぶことにする(よって\( \; t \; \)に関する微分可能性は暗黙の内に含まれている)。ゆえに方程式(1)に伴う相流は線形変換の1-パラメータ群になっており、この相流の作用による点の運動は方程式(1)の解にほかならない。

定理Ⅲ. 直線\( \; {\bf R} \; \)上の線形変換の1-パラメータ写像\( \; \{g^{t}\} \; \)は、(1)の形の微分方程式の相流である。すなわちある\( \; k \; \)があって\[ g^{t}x=e^{kt}x. \]

  • 証明に入る前に、一般的性質をみておく。
  • \( \; \{g^{t}\} \; \) を領域\( \; U \; \)の微分同相写像の1-パラメータ群、\( \; {\bf v} \; \)を関係式\[ {\bf v}(x)=\left. \dfrac{d}{dt} \right |_{t=0}g^{t}x, \;\;\; x \in U \]で定められる相速度ベクトルのベクトル場とする。

定理Ⅳ. 相点の運動\( \; \phi \; : \; {\bf R} \longrightarrow U, \; \phi (t)=g^{t}x \; \)は微分方程式\[  (2) \;\;\; \dot{x}={\bf v}(x) \]の解である。

証明。各時刻\( \; t_{0} \; \)における相点\( \; g^{t}x \; \)の運動の速度が、点\( \; g^{t_{0}}x \; \)における相速度に等しいことを示せばよいが、これは変換\( \; \{g^{t}\} \; \)が群をなすことから明らかである:\[ \left. \dfrac{d}{dt} \right |_{t=t_{0}}g^{t}x=\left. \dfrac{d}{dt'} \right |_{t'=0}g^{t_{0}+t'}x=\left. \dfrac{d}{dt'} \right |_{t'=0}g^{t'}(g^{t_{0}}x)={\bf v}(g^{t_{0}}x). \](証明終)

定理Ⅲの証明。\( \; \{g^{t}\} \; \)を線形空間\( \; L \; \)上の線形変換の1-パラメータ群であるとする。このとき相速度\( \; {\bf v}(x) \; \)は\( \; x \in L \; \)に線形依存している。というのも\( \; x \; \)に関して線形である関数\( \; g(t, \; x)=g^{t}x \; \)の、パラメータ\( \; t \; \)に関する微分係数\( \; (d/dt) |_{t=0} \; \)はそれ自体\( \; x \; \)に関して線形であるはずだからである。とくに線形空間が実直線\( \; {\bf R} \; \)のときは、\( \; x \; \)に関して線形な関数はすべて\( \; {\bf v}(x)=kx, \; k={\bf v}(1) \; \)という形をしている。ゆえに運動\( \; \phi (t)=g^{t}x \; \)は方程式(2)において\( \; {\bf v}(x)=kx \; \)としたものの解であるから、方程式(1)の解である。条件\( \; \phi (0)=x \; \)を満たすこの方程式の唯一の解\( \; \phi \; \)は\( \; g^{t}x=e^{kt}x \; \)の形をしているから定理Ⅲの証明が済んだことになる。(証明終)

命題1. 直線上の線形変換の連続1-パラメータ群は必然的に微分可能である。

証明。\( t \; \)が整数であるときは容易に\( \; g^{t}=k(1)^{t} \; \)であることがわかる。というのも\( \; g^{t}x \; \)は線形変換なのだから、\[ g^{t}x=k(t)x \]という形に書ける。ここで\( \; k(t) \; \)は\( \; t \; \)に連続的に依存している実数である。よって写像\( \; g^{t} \; \)を実数\( \; k(t) \; \)と同一視すれば、まず\( \; g^{0}=1 \; \)から\[ k(0)=1. \]\( g^{t}g^{-t}=1 \; \)から\[ k(t)\cdot k(-t)=1 \]であり、連続性も用いると\( \; k(t)>0, \; t \in {\bf R} \; \)がいえる。さて\[ k(1)x=g^{1}x=g^{(1/n)+(1/n)+\ldots +(1/n)}x=(k(1/n))^{n}x \]より\[ k(1/n)=k(1)^{1/n}. \]これを使えば任意の有理数\( \; m/n \; \)に対して\[ g^{m/n}x=\left ( g^{1/n} \right )^{m}x=k(1)^{m/n}x. \]よって有理数に関して\( \; g^{t}x=k(1)^{t}x \; \)がいえた。任意の無理数に対してそれに収束する有理数列をとり、\( \; g^{t} \; \)の\( \; t \; \)に関する連続性を用いれば、無理数に対しても\( \; g^{t}x=k(1)^{t}x \; \)が成立することがわかる。まとめると\[ g^{t}x=k(1)^{t}x, \;\;\; t, \; x \in {\bf R}, \; k(1) \in {\bf R}. \]\( \; g^{t} \; \)は明らかに\( \; t \; \)に関して微分可能である。(証明終)

  • これから線形変換の1-パラメータ群の定義において、変換\( \; g^{t} \; \)の\( \; t \; \)に関する微分可能性の要求を、\( \; t \; \)に関する連続性で置き換えられる。

問題2. 次の線形空間のすべての線形変換の1-パラメータ群を求めよ:a)\( \; {\bf R}^{2}, \; \)b)\( \; {\bf C}^{1}. \; \)

解答。\( {\bf R}^{2} \; \)については、二次の正方行列\( \; A \; \)を用いて\[ f({\bf x})=A{\bf x}, \;\;\; {\bf x} \in {\bf R}^{2} \]が平面上の線形変換である。\( \; {\bf C}^{1} \; \)については考え中。

  • 次により複雑な微分方程式\[ \dot{x}=\sin{x}, \;\;\; x \in {\bf R} \]を考える。

問題3. この方程式の解で、初期条件\( \; \phi (0)=x_{0} \; \)を満たすものを求めよ。

解答。ベクトル場\( \; {\bf v}(x)=\sin{x} \; \)の特異点は\( \; x=k\pi, \;\;\; k=0, \; \pm 1, \ldots \; \)であるから\( \; x_{0} \; \)がこれらの内の一点であるとき、解は定理Ⅰにより\[ \phi (t) \equiv x_{0}. \]そうではないときを考える。\( \; \mu=\tan{(\xi/2)} \; \)なる変数変換を施せば、\[ t=\int_{x_{0}}^{\phi (t)}\dfrac{d\xi}{\sin{\xi}}=\int_{\tan{(x_{0}/2)}}^{\tan{(\phi (t)/2)}}\dfrac{d\mu}{\mu}=\ln{\left [ \dfrac{\tan{(\phi (t)/2)}}{\tan{(x_{0})/2}} \right ] }. \]ゆえに\[ \tan{ (\phi (t)/2 )}=e^{t}\tan{(x_{0}/2)} \]を得る。(解答終)

  • ここでも同じように\( \; t \; \)時間経過写像\[ g^{t} \; : \; {\bf R} \longrightarrow {\bf R}, \;\;\; g^{t}x_{0}=\phi (t) \]を定義しよう。ここで\( \; \phi (t) \; \)は初期条件\( \; \phi (0)=x_{0} \; \)を満たす解である。写像の族\( \; \{g^{t}\} \; \)は直線上の微分同相写像の1-パラメータ群、すなわち与えられた方程式に伴う相流になっている。相流\( \; \{g^{t}\} \; \)は固定点\( \; x=k\pi, \; k=0, \; \pm 1, \ldots , \; \)を持ち、微分同相写像\( \; g^{t} \; (t \neq 0) \; \)は直線上の非線形変換である。変換\( \; g^{t} \; \)は各点\( \; x \; \)を\( \; t > 0 \; \)なら最近接にある\( \; \pi \; \)の奇数倍へ、\( \; t < 0 \; \)なら最近接にある\( \; \pi \; \)の偶数倍へと移動させる(この様子を相空間または拡大相空間の中にベクトル場(方向場)を描いて幾何学的に理解してほしい)。

問題3. 関数列\( \; g^{t_{i}}, \; t_{i} \to \infty \; \)は各点で収束するが、一様収束はしないことを示せ。

解答。簡単のため\( \; 0<x_{0}<\pi, \; t>0 \; \)として考える。各点収束していることは明らかであるから、\( \; \pi \; \)への収束速度の、初期状態\( \; x_{0} \; \)への依存性をみてやればよい。直観的には\( \; x_{0} \; \)を原点の十分近くにとることで、収束をいくらでものろくすることができるから一様収束はしない。もう少し厳密に述べよう。原点の十分小さな近傍で考えると、\( \; \tan{x} \sim x \; \)としてよい。するとある正数\( \; \varepsilon \; \)を任意にこちらが定めたとき、番号\( \; i_{0} \; \)を、\[ t_{i}>\ln{ \left [ (\pi-2\varepsilon)/x_{0} \right ] } \]を満たす最小の自然数として定めれば、これより大なるすべての番号に対して、\( \; x_{0} \; \)を固定しておけば、\( \; \pi/2 \; \)との距離が\( \; \varepsilon \; \)より小なるようにできる。ところが\( \; x_{0} \; \)を十分小さく(つまり原点に近く)とれば、番号\( \; i_{0} \; \)をいくらでも大きくすることができる。よって一様収束はしない。(解答終)

  • 上の例から、直線上の各微分方程式\[ \dot{x}={\bf v}(x), \;\;\; x \in {\bf R} \]に、直線上の微分同相写像の1-パラメータ群\( \; \{g^{t}\}, \; g^{t}x=\phi (t) \; \)が対応しているのではないか、との希望を持ちたくなる。ここで\( \; \phi (t) \; \)は初期条件\( \; \phi (0) =x_{0} \; \)を満たす解である。ところが次の例が示すように、この希望的観測は真でない。
  • 微分方程式\[ \dot{x}=x^{2} \]を考える。これは前に、その特性として「過度な増大率」をもつ例として挙げたものである。定理Ⅰによって、この微分方程式は解\[ t-t_{0}=\int_{x_{0}}^{\phi (t)}\dfrac{d\xi}{\xi^{2}} \]をもつ。これはしばしば\[ (3) \;\;\; \int dt =\int \dfrac{dx}{x^{2}} \]のように書かれる。(3)と\[ t=-\dfrac{1}{x}+C, \;\;\; x=-\dfrac{1}{t-C} \]が同値などと考えてはいけない。または関数\( \; x=-1/(t-C) \; \)が、解だと考えてはいけない。事実、関数\( \; x=-1/(t-C) \; \)の定義域はひとつの区間ではなく、二つの区間\( \; t<C, \; t>C \; \)であり、この二つの区間上に関数の定義域を制限したとき、互いにまったく関連のない二つの解が得られる(もちろん、これは実数\( \; t \; \)上の領域に考えの対象を絞っているからである。そして領域以外のものは本書で扱わない)。以上の議論から人口の増大率がペアの総数に比例するような場合、人口は有限時間で無限大に発散してしまうことになる(一方、増大則はふつう指数関数的である)。物理的にこの結論は、考えている物理過程の爆発的性質を反映したものとなる(これは\( \; C \; \)に十分近い\( \; t \; \)に対しては、物理過程をこの微分方程式で理想化して記述するのが現実的でなくなることを意味する。実際には有限時間で人口が無限大に発散することなど起こらない)。また\( \; t \; \)時間経過写像の公式(\( \; g^{t}x_{0}=\phi (t) \; \)、ここで\( \; \phi (t) \; \)は初期条件\( \; \phi (0)=x_{0} \; \)を満たす解)は、どんな\( \; t \neq 0 \; \)に対しても微分同相写像\( \; g^{t} \; : \; {\bf R} \longrightarrow {\bf R} \; \)を与えないことが分かる。
  • この問題でなぜ\( \; \{g^{t}\} \; \)が微分同相写像の1-パラメータ群にならないかというと、それは微分可能性や群の性質が欠落するからではなく、ただ単に関数\( \; g^{t}, \; t \neq 0 \; \)が\( \; x \; \)軸全域で定義されていないからであり、ある解は有限の\( \; t \; \)で無限大に発散してしまう。ところが、もし解が有限時間で無限大にならないのなら、各微分方程式にひとつの微分同相写像の1-パラメータ群が対応することになる。

問題4. \( |x| \; \)が十分大きいとき\( \; {\bf v} \; \)が恒等的にゼロで、しかも微分可能であるとき、上の主張が成り立つことを示せ。

解答。(考え中)

  • よって上述の反例は直線の非コンパクト性から生じることがわかる。

平面上のベクトル場と相流 

 微分方程式が定める相空間の次元が1より大きいと、方程式を完全に解く一般的な方法はない。しかしながらその中に、一次元の問題へと帰着できる特殊なケースがある。

  • 相空間\( \; U_{1}, \; U_{2} \; \)上でそれぞれ微分可能なベクトル場\( \; {\bf v}_{1}, \; {\bf v}_{2} \; \)によって定まる二つの微分方程式\[ \begin{eqnarray*} &(1)& \;\;\; \dot{x}_{1}={\bf v}_{1}(x_{1}), \;\;\; x_{1} \in U_{1}, \\ &(2)& \;\;\; \dot{x}_{2}={\bf v}_{2}(x_{2}), \;\;\; x_{2} \in U_{2}, \end{eqnarray*} \]を考える。
  • 微分方程式(1)と(2)との直積とは、その相空間が\( \; U_{1} \; \)と\( \; U_{2} \; \)との直積である微分方程式のことである。この方程式は場\( \; {\bf v}_{1}, \; {\bf v}_{2} \; \)の「直積」をそのベクトル場として定められる:\[ (3) \;\;\; \dot{x}={\bf v}(x), \;\;\; x \in U. \]ここで\[ U=U_{1}\times U_{2}, \;\;\; x=(x_{1}, \; x_{2}), \;\;\; {\bf v}(x)=({\bf v}_{1}(x_{1}), \; {\bf v}_{2}(x_{2})) \]である。
  • とくに相空間\( \; U_{1} \subset {\bf R}, \; U_{2} \subset {\bf R} \; \)が一次元ならば、\( \; U \; \)は平面\( \; (x_{1}, \; x_{2}) \; \)の領域であって、微分方程式(3)は二つの特別な形をしたスカラー微分方程式系(4):\[ \begin{cases} \dot{x}_{1}={\bf v}_{1}(x_{1}), \;\;\; x_{1} \in U_{1} \subset {\bf R}, \\ \dot{x}_{2}={\bf v}_{2}(x_{2}), \;\;\; x_{2} \in U_{2} \subset {\bf R}, \end{cases} \]になる。上の定義から直ちに次のことがわかる。

定理Ⅴ. \( \phi \; \)が微分方程式(1)と(2)との直積(3)の解ならば、\( \; \phi \; \)は\( \; \phi (t)=(\phi_{1}(t), \; \phi_{2}(t)) \; \)の形をした写像\( \; \phi \; : \; I \longrightarrow U \; \)である。ここで\( \; \phi_{1}, \; \phi_{2} \; \)は同一の区間\( \; I \; \)上で定義された方程式(1)と(2)の解である。

  • とくに相空間\( \; U_{1}, \; U_{2} \; \)が一次元ならば、我々は方程式(1)と(2)、それぞれをどう解くかわかっているのだから、二つの微分方程式系(4)も完全に解くことができる。実際定理Ⅰによって、初期条件\( \; \phi (t_{0})=x_{0} \; \)を満たす解\( \; \phi \; \)は\( \; t=t_{0} \; \)の十分近傍で関係式\[ \int_{x_{10}}^{\phi_{1}(t)}\dfrac{d\xi}{{\bf v}_{1}(\xi)}=t-t_{0}=\int_{x_{20}}^{\phi_{2}(t)}\dfrac{d\xi}{{\bf v}_{2}(\xi)}, \;\;\; x_{0}=(x_{10}, \; x_{20}) \]によって求めることができる。もちろん\( \; {\bf v}_{1}(x_{10})\neq 0, \; {\bf v}_{2}(x_{20})\neq 0 \; \)の場合である。もし\( \; {\bf v}_{1}(x_{10})=0 \; \)ならば、上の関係式の左辺が\( \; \phi_{1} \equiv x_{10} \; \)で置き換えられ、同様に\( \; {\bf v}_{2}(x_{20})=0 \; \)なら今度は右辺が\( \; \phi_{2}\equiv x_{20} \; \)で置き換えられる。最後にどちらもゼロの場合は、点\( \; x_{0} \; \)がベクトル場\( \; {\bf v} \; \)の特異点ということになり、(4)の平衡位置になる。すなわち\( \; \phi (t) \equiv x_{0} \; \)である。
  • 次の二つの微分方程式系を考えてみよう:\[ \begin{cases} \dot{x}_{1}=x_{1}, \\ \dot{x}_{2}=kx_{2}. \end{cases} \]それぞれの方程式はすでに解けているので、初期条件\( \; \phi (t_{0})=x_{0} \; \)を満たす解\( \; \phi \; \)は\[ (5) \;\;\; \phi_{1}=x_{10}e^{t-t_{0}}, \;\;\; \phi_{2}=x_{20}e^{k(t-t_{0})} \]という形をしている。すると各相曲線\( \; x=\phi (t) \; \)に対して、\( \; x_{1} \equiv 0 \; \)か、または\[ (6) \;\;\; |x_{2}|=C|x_{1}|^{k} \]が成り立っている。ここで\( \; C \; \)は\( \; t \; \)に無関係な定数である。

問題5. (6)で与えられる平面\( \; (x_{1}, \; x_{2}) \; \)上の曲線は相曲線か。

解答。否。簡単のため\( \; k=1 \; \)とし、\( \; x_{0}=(1, \;1) \; \)としよう。するとこの点を初期条件として満たす解は原点から発し(原点を含まない)、無限遠方へと遠ざかる半直線になる。ところが(6)式でこれに対応するのは原点を通る直線であり、これは三つの相曲線を含んでいる(原点が固定点であり、さらにこの固定点から発する二つの相曲線)。

  • \( \; C \in {\bf R} \; \)としたとき、曲線の族(6)はパラメータ\( \; k \; \)の変化に応じて様々な模様を呈する。\( \; k>0 \; \)なら「\( \; k \; \)次の一般化された放物線」を得(実際に放物線となるのは\( \; k=2, \; 1/2 \; \)のときに限る)、これは\( \; k>1 \; \)なら\( \; x_{1} \; \)軸に接し、\( \; k<1 \; \)なら\( \; x_{2} \; \)軸に接する。\( \; k=1 \; \)のときは原点を通る直線の族を得る。これらのケースにおける相曲線の配置模様を結節点(ノード)と呼ぶ。一方\( \; k<0 \; \)に対しては、曲線は双曲線となり(実際に双曲線になるのは\( \; k=-1 \; \))、原点近傍で鞍点(サドル)を形成する。\( \; k=0 \; \)なら曲線は直線に変化する。(5)式から明らかなように、各相曲線は四つの象限の内のどれかにまるごと含まれている(または座標軸の半分か、すべての\( \; k \; \)に対して相曲線となる原点)。
  • 次に\( \; t \; \)時間経過写像\( \; g^{t} \; \)をいつものように定義してやって、そこからこの系に伴う相流を構成しよう。つまり初期条件\( \; \phi (0)=x_{0} \; \)を満たす解\( \; \phi (t) \; \)に対して、\( \; g^{t}x=\phi (t) \; \)により\( \; g^{t} \; \)を定めるのである。(5)式から\( \; g^{t} \; \)が平面上の線形変換であること、つまり\( \; x_{1} \; \)軸方向への\( \; e^{t} \; \)倍伸縮と、\( \; x_{2} \; \)軸方向への\( \; e^{kt} \; \)倍伸縮を組み合わせたものであることがわかる。変換\( \; g^{t} \; \)の行列表示は\( \; x_{1}, \; x_{2} \; \)に関する座標表示で、対角行列\[ g^{t}= \left ( \begin{array}{cc} e^{t}&0 \\ 0&e^{kt} \end{array} \right ) \]である。\( \; g^{t}x \; \)の\( \; t, \; x \; \)に関する微分可能性は自明に成り立っているから、写像\( \; g^{t} \; \)は平面上の線形変換の1-パラメータ群である。
  • この場合、平面上の線形変換の1-パラメータ群\( \; g^{t} \; \)は、二つの直線上の線形変換の1-パラメータ群の直積に分解できるということに注意。

問題6. すべての平面上の線形変換の1-パラメータ群は同じように分解できるか。

解答。否。例えば原点を回転の中心とする\( \; t \; \)回転写像を考える。これを行列表示すると\[  \left ( \begin{array}{cc} \cos{t}&-\sin{t} \\ \sin{t}&\cos{t} \end{array} \right ) \]となるが、この行列の作用を\( \; x_{1} \; \)成分に対するものと、\( \; x_{2} \; \)成分に対するものに分解することはできない。というのもこの回転作用によって不変なのは(つまりこの行列の固有ベクトル)原点ただひとつであり、これは零次元の固有空間を成しているからである。要するに対角化できないわけだ。