着想メトロ

アイデアとは、世界の捉え方を再構成することで新たな価値を獲得し、さらにそれを経験によって持続させる、一連のプロセスのこと。

言葉は思考する(十三)――アルツハイマー病を検知する血液検査が確立されるが、受診への抵抗も

サンテーズ(綜合)という作業

 今回は趣向を変えて、複数の記事をサンテーズ(synthèse)してみたいと思う。サンテーズとはその定義から「綜合」のことである(「分析」の対義語)。ばらばらに散らばった要素に共通する「核」を抽出して、まとめあげ整理する作業のことを言う。念のため意味を仏仏辞書で引くと

opération intellectuelle par laquelle on rassemble les éléments de connaissance concernant un object de pensée en un ensemble cohérent (PETIT ROBERT) 

とある。すなわち「ひとつの思惟の対象に関与する複数の知見を、矛盾なく関連付けてひとつの全体にまとめあげる作業」である。この意味を見てわかるとおり、これは非常に高度な知的プロセスだ。母語でもしっかりできるかあやしいところだが、例えば論文などを執筆する際にはこの作業を経なければならない。それまでの研究がどのような対象を明らめようとし、どのような成果を得、どのような問題点、改善点が提起されたのかを、数十(あるいは数百)の論文から抽出、整理しなければならない。

 上記のような理由もあるが、実のところ第一の動機はDALF C1への合格である。DELF/DALFというのはフランス語の資格試験で、仏検やTCFと並んで代表的である(僕はDELF B2を一度受験したのみ)。何の略かというと、DELF(diplôme d'études en langue française)、DALF(diplôme approfondi de langue française)だ(デルフ・ダルフと読む)。仏検とは違い、ヨーロッパ基準の資格試験である。またTCFと違い記述式の問題で、面接もある。よって語学能力を正確に測ることが期待できる(と僕自身は思っている)。ついでながら、一度合格したら死ぬまで効力は消えない。

 もう三年ほど前になるが、僕は留学する前に一度DELF B2を受験した。結果は43点で見事不合格。ちなみに合格するには最低50点要る(また四つのパート聴解・読解・文書作成・面接でそれぞれ最低5/25点以上)。リスニングはぼろぼろで、ほとんど聞き取れていなかった。確か医療関係の話だったと記憶している。また文書作成も語彙力不足のせいで思ったように点を稼げなかった。唯一できがよかったのが面接で、お題は「パリ郊外の学校での体罰について」であった(本当はもうひとつお題があってどちらかを選べるのだが、もう一方が何であったかは忘れた)。

 手元にあるDELF/DALFのパンフレット(2013年版)を見ると、それぞれのレベルに合格するために求められるフランス語運用能力の指標(cadre européen commun de référence pour les langues)が書いてある。一番下はA1で初級者がこのレベルにあたる。そこから順にA2、B1、B2、C1、C2と要求される能力が高度になっていく。B2までがDELFで、そこから上がDALFに分類されている。参考までにB2、C1合格のために求められる力を引用しておく。

DELF B2:フランス語を全般に渡って自主的に運用できる。複雑なテキストの要点を理解すると同時に、一般的あるいは専門的な内容の会話に参加し、筋道の通った意見を明確に詳細に述べることができる。

DALF C1:フランス語の優れた運用能力を持つ。含みのある難解な長文テキストであっても、その殆どを理解し、自分の社会的立場や仕事、学問との関わり、あるいは他の複雑なテーマについて、流暢かつ理論的に述べることができる。

 三年前はB2のレベルに達していなかった。そこから最小限の時間はフランス語のために割いてきたつもりだし、留学もした(語学ではなく数学を勉強してきたのだが)。そこで冷静に自分の立ち位置を観察すると、やはりB2のレベルはすでに突破しているだろうと思う。そこで次のレベルであるC1を視野に入れて語学に励みたいわけだが、ここでひとつ困難がある。

 それが文書綜合(synthèse de documents)だ。複数の文書から共通のキーになる概念を抜き出し、まとめて整理する試験があるのだ。上述の基準を見ると分かる通り、ここまでくると語学能力というよりも個人の基礎的な思考力・表現能力が重要になってくるとわかるだろう。この本来の力を邪魔しない程度のフランス語運用能力が必要だといっているわけだ。

 文書綜合に際してはいくつか注意しなければらない点がある。

  1. 自分の意見を述べてはならない
  2. 綜合に当たって、本文に用いられている表現を真似てはならない(自分の言葉で表現しなければならない)
  3. 文書作成に際して、構成は導入+展開で、結論部分は求められない限り必要がない
  4. 一人称表現を用いてはならない(jeやnous)
  5. 指定された語数を順守する

 自分の言葉で記事をまとめなければならないので、同じことを別の言い方で表現できなければならない。つまり豊かな語彙力が要求される。また自分の意見を勝手に織り混ぜてはならない。書かれてあること、主張されていることに忠実でなければならない。なので記事の内容を理解できていることは大前提で、そこからどういうふうな具合で主要なアイデア(またそれに付随する副次アイデア)を総合し、第三者に理解しやすい形で文章としてまとめるか、ということが問われている。

 いってしまえば機械的作業であるが、複数の記事にまたがるキー概念を見抜き、それをみやすい形で(これも自分勝手にではなく、本文に忠実かつ合理的な仕方で)表現し直すのは、決して簡単なことではない。しかも試験では制限時間があり、辞書も使えない。よって自前の語彙でなんとかやりくりしなければならない。

 つまりまとめてしまうと、これがDALFを難しくしている第一の要素なのだ。そこでなんとしてでも対策する必要がある。そしてこの対策により、フランス語のみならず母語においても、綜合の力が向上すると考えられる。この記事でサンテーズをするのは、もちろん自分の動機付けのためでもあるし、またこれからこの試験を受験しようとしている人たちに、合格のためのヒントを提供できたら、とも考えているからだ。

今回サンテーズする文書

 本文をここに記載すると無駄に記事が長くなるので、リンクを貼りつけておく。どちらもHuffpostの記事だが、記事の途中には、「Lire aussi」の欄(関連する記事の欄)に似たような話題を扱った記事へのリンクが貼られている。これを利用して負荷なく(関連する記事を集めるという労力なく)サンテーズの訓練を積むことができる。本文はできれば印刷して、紙面に直接メモできるようにしておくとよい。

 また草案を練る際には、フランス語ではなく日本語でまとめると時間がかからない。ただしそこには主要なアイデアと、それに付随する二次アイデア、およびそれらを関連付けて再構成するおおまかな方針だけ書いておいて、あとはフランス語で考えるとうまくいく。

1) Dépistage de la maladie d'Alzheimer: un test sanguin qui dépisterait précocement les risques

2) Dépistage de la maladie d'Alzheimer : 10% des Français refuseraient de faire le test

 今回、記事の内容としては類似し過ぎている。本来はひとつの対象をもう少し異なる視点で眺めたものを集めてサンテーズするといい練習になる。また本文も長くはないので、簡単に200語前後でまとめあげる。以下がその結果である。かかった時間は一時間弱だ。また結論に当たる部分もあるが、本来指示がなければ書いてはならない。ここでは個人的に「今後の展望」がないと気持ちが悪いので付け加えた。

 

(イントロ)

  De plus en plus de Français sont atteints de la maladie d'Alzheimer, mais il n'existe pas de remède décisif contre cette maladie. Pourtant, des chercheurs ont établi le test sanguin permettant de détecter l'apparition de la maladie. D'autre part, une étude montre que 10% des Français hésiteraient à passer ce genre de tests.

 

(展開部分)

  La prise de sang n'est pas coûteuse par rapport au scanner célébral. C'est le premier atout de ce test. Et surtout, il permet d'évaluer précisément l'état actuel du patient s'il est atteint, grâce à la détection des protéines résponsables de la maladie. Ainsi il est possible de prévenir la maladie, voire d'en empêcher son developpement. En d'autres termes, ce test est beaucoup plus facile à faire, il est efficace, et surtout fiable.

  Cependant, la fiabilité n'encourage pas forcément les gens à se soumettre à ce test sanguin. Premièrement c'est parce qu'ils ont peur du résultat. Se rendre compte que l'on est affecté par une maladie incurable ne serait pas souhaitable pour profiter de la vie. Deuxièmement, ils justifient le fait de ne pas être affectés par leurs symptômes subjectifs. Mais cela est dangereux, puisqu'en effet quand ils ont conscience d'en être atteints, il est souvent déjà trop tard.

 

(結論部分)

  Il est important de trouver le remède contre cette maladie. Mais avant tout, ce qui est indispensable dans la prochaine étape c'est de faire savoir aux gens que si l'on réussit à dépister le début de la maladie, les préparations nécessaires pour lutter contre la maladie sont possibles. (249 mots)

 

 主要アイデアとして「効率がよく安価な評価方法の確立」と、「大衆が検査に示す抵抗」を採用した。そこから具体的な理由を元に組み立てたのがこのサンテーズである。見てもらえばわかるように、おもしろいことなどひとつも主張できない。ただ書かれてある事実を正しい方法で羅列し、関連付けるだけの作業で非常にアカデミックである。 

 また注意してほしいことがあって、結論部分で述べてあることは本文には書いていない。これは僕独自の見解であって、試験では即大幅な減点につながるタブーである。たが個人的にそういった帰結部分がないと楽しめないので付け足すことにしたわけだ。

語彙の確認

1. RESTE A SAVOIRE+間接疑問節で「~はまだ分からない」という意味の成句。

2. DEPISTAGE(rechercher systématiquement et découvrir ce qui est peu apparent, ce qu'on dissimule)だから「システマティックな方法で、隠れているものを発見する」こと。そこからとくに「病気の発見」を指す。

3. ANTICIPER(exécuter avant le temps déterminé)なので「先取りする、前もって実行する」こと。本文では「病気の発覚を意図的に(検査を受けることで)早める」という意味で使われていた。

4. IMAGERIE CELEBRALEとは、MRIで撮影した脳の断面図のこと。

5. ANGOISSER(inquiéter au point de faire naître l'angoisse)だから「苦悩するほどひどく心配させる」こと。