着想メトロ

アイデアとは、世界の捉え方を再構成することで新たな価値を獲得し、さらにそれを経験によって持続させる、一連のプロセスのこと。

最小作用の原理(4)――部分積分で道を開く

 

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 前回までの議論で、真の軌道からの小さなずれ\( \; \theta (t) \; \)が作用に与える一次の変化が、\[ \delta S=\int_{t_{1}}^{t_{2}}\left [ m\dfrac{dx^{*}}{dt}\dfrac{d\theta}{dt}-\theta V'(x^{*}) \right ]dt \]と表せることがわかった。

 

 次に問題となるのが、作用に現れる変化が積分の形をしていることだ。まだ\( \; x^{*} \; \)は具体的に分かっていないが、どんな\( \; \theta \; \)であろうと、この積分値がゼロとならなければならないことは分かっている。すると\( \; \theta \; \)の係数をゼロとおけばよいのだろうか。しかし第一項はどうすればいいのだろう。\( \theta \; \)が任意なのだから、その微分係数\( \; d\theta/dt \; \)も任意であるとして、その係数もゼロであるとしたくなるかもしれないが、それは正しくない。というのも\( \; \theta \; \)とその微分係数にはつながりがあるからで、これらは完全に独立ではないからだ。

 変分法におけるこの種の問題を解くには一般的な原則があって、まず変化させたい量をずらし(いまの場合は\( \; \theta \; \)を加えたのがそれにあたる)、その内一次の変化に着目して、次に被積分項を何か×ずれ(\(  \theta  \))の形へと変形し、微分係数(\( d\theta/dt \))を含む項が無いようにするのである。常に何かかける\( \; \theta \; \)という形になっていなければならない。こうすることのわけはすぐ後でわかる。

 どうすれば\( \; d\theta/dt \; \)を含む項から\( \; \theta \; \)をつくりだせるだろうか。部分積分をするのである。実のところ変分問題というのは、作用\( \; S \; \)の変化を書き下したあと、\( \; \theta \; \)の微分係数を除くために部分積分をすればよいのだ。微分係数が現れるときはいつもこの方法が適用できる。

 部分積分については大体理解していると思う。もし何らかの関数\( \; f \; \)と\( \; d\theta/dt \; \)の積が時間に関して積分された項があるときは、まず\( \; \theta f \; \)の時間に関する微分を書き下す:\[ \dfrac{d}{dt}(\theta f)=\theta \dfrac{df}{dt}+f\dfrac{d\theta}{dt}. \]この両辺を積分すれば、問題の項は第三項に等しいから、\[ \int f\dfrac{d\theta}{dt}dt=\theta f -\int \theta \dfrac{df}{dt}. \] 得られた作用の変分\( \; \delta S \; \)の表式においては、\( \; f \; \)にあたるのが\( \; dx^{*}/dt \; \)であるので

\[ \delta S=m \left. \dfrac{dx^{*}}{dt} \theta (t) \right |_{t_{1}}^{t_{2}} -\int_{t_{1}}^{t_{2}}\dfrac{d}{dt} \left ( m\dfrac{dx^{*}}{dt}\right ) \theta (t)dt-\int_{t_{1}}^{t_{2}}V'(x^{*})\theta (t) dt \]となる。すると期待した通り、定積分の項が打ち消される。というのもずれ\( \; \theta \; \)は端点でゼロだからである。残った項をまとめれば、\[  \delta S = \int_{t_{1}}^{t_{2}} \left [ -m \dfrac{d^{2}x^{*}}{dt^{2}}-V'(x^{*})\right ]\theta (t) dt. \]これで作用の変分が望んだ通りの形になった。すなわち括弧内の関数\( \; F \; \)に\( \; \theta \; \)をかけたものを、\( \; t_{1} \; \)から\( \; t_{2} \; \)まで積分したものになっている。

 何かかける\( \; \theta (t) \; \)を積分したものが常にゼロになる、つまり\[ \int F(t) \theta (t) dt = 0. \]\( \; t \; \)の関数があって、これに\( \; \theta (t) \; \)を乗じたものを始点から終点まで積分すると、\( \; \theta \; \)がいかなるものであろうともそれはゼロになるというのだから、これは\( \; F(t) \; \)そのものがゼロでなければならないことを意味する。ほぼ明らかだが、念のためその理由を示しておく。

 \( \; \theta (t) \; \)として、ある特定の一点\( \; t' \; \)で鋭いピークを持つものを考える。ピークの中心\( \; t=t' \; \)とその近傍\( \; (t'-\Delta t, \; t'+\Delta t) \; \)以外では恒等的にゼロである。するとこの\( \; \theta \; \)と関数\( \; F \; \)を乗じたものがゼロ以外の値を返すのは、当然ピークのある範囲となる。ピークの幅は十分狭くとれるから、この範囲で\( \; F \; \)の値はほぼ一定だとみなせるので、\[ \int_{t_{1}}^{t_{2}} F(t) \theta (t)dt \approx F(t')\int_{t'-\Delta t}^{t'+\Delta t} \theta (t)dt \]とかける。積分因子はゼロでないから、これがゼロということは\( \; F(t) \; \)がピークの近傍で恒等的にゼロでなければならない。ピークの位置は任意に選べるので、結局\( \; F \; \)は恒等的にゼロとなる。

 以上からもし任意の\( \; \theta \; \)に対して積分値がゼロとなるなら、\( \; \theta \; \)の係数がゼロでなければいけないことがわかった。そうすると作用を最小にするような軌道は次のような入り組んだ微分方程式を満たさなければならない:\[ \left [ -m \dfrac{d^{2}x^{*}}{dt^{2}}-V'(x^{*}) \right]=0. \]ところがこれはそれほど複雑ではない。我々はこの方程式を一度目にしたことがある。そう、\( \; F=ma \; \)にほかならないのだ。第一項は質量と加速度の積に、第二項はポテンシャル・エネルギーを微分したもので、これは力に等しい(保存系の場合)からである。

 よって少なくとも保存系に関しては、最小作用の原理が正しい解答を導くことを確かめられた。すなわち最小作用をもつ軌道がニュートン方程式を満たすことがわかった。

 ただ、私はそれが最小値であることを証明してはいないことに注意しよう。それは最大値かもしれないのだ。実際最小値である必要はなくて、光学で学んだ「最短時間の原理」でわかったことと非常に似通っている。始めは「最短」時間と言っていたが、ある状況の下では「最短」となり得ないことがわかったのだった。根本原理は、光の辿る軌道からの、一次のずれに応じる変化がゼロとなることであって、話は同じことである。「最小」の本当に意味することとは、軌道を変化させたときの、作用に現れる一次変分がゼロであることなのだ。