着想メトロ

アイデアとは、世界の捉え方を再構成することで新たな価値を獲得し、さらにそれを経験によって持続させる、一連のプロセスのこと。

最小作用の原理(3)――ずれに応じる変化を見る

 

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  この数学分野には様々な問題があって、たとえば、普通「円」を定義するには、「ある固定点から等距離にある点の集合が成す軌跡」とすればよいが、実はもうひとつの方法がある:円とは、ある長さが与えられたとき、その長さによって囲む領域の面積が最大となる軌跡である。すなわち、同じ周長をもつ閉曲線が囲むどの面積よりも、円のそれは大きいということになる。だから「与えられた周長によって最大面積を囲む曲線を求めよ」というふうに問題を提示すれば、これは変分法の問題になる。そしてこれば普段慣れ親しんでいるものとは異なる解析問題なのだ。

 ではいまから、ある物体の描く軌跡の解析を始めよう。そのためのアイデアとして、真の軌跡を仮定し、それとは違う他のすべてを「偽の軌跡」とすれば、偽の軌跡に対して計算した作用はどれも、真の軌跡のそれよりも大きくなるだろう。

 問題:真の軌跡を求めよ。それはどこにあるのか。ひとつの手段としては、異なる無数の軌跡のそれぞれに対し作用を計算してそれを比べ、最も小さな作用を与える軌跡を特定することである。それもひとつのアイデアだが、ここではもう少し賢い方法を採用しよう。実は最小値をもうような変化量があるとき――たとえば温度のような通常の関数を想定しよう――最小値の特性のひとつは、最小値を与える点から一次の量だけずらしたとき、それに伴う関数値のずれは二次の量程度にしかならないということである。その他の点では(極大・極小を与えない点では)、一次の量だけずらすと、関数値も一次の量だけずれる。

 一次の量とは、ある量だけずらしたときに、そのずれの一乗に比例する量のことである。だから二次の量とはずれの二乗に比例していて、もしこのずれが非常に小さいならば、それを二乗するとさらに小さな量となる。このことから、小さなずれが関数値に与える影響が極端に少ないのが、極大・極小を与える点の特徴と言える。

 簡単のために一変数関数\( \; f(x) \; \)をとると、極大・極小を与える点\( \; x^{*} \; \)では\( \; df(x)/dx|_{x=x^{*}}=0 \; \)となる。この点から小さな量\( \; \Delta x \; \)だけずらした点での関数値と、\( \; x^{*} \; \)での関数値の差を\( \; \Delta f \; \)とおけば、テイラーの公式により\[ \begin{eqnarray*} \Delta f &=& f(x^{*}+\Delta x)-f(x^{*}) \\ &=& \left [ f(x^{*})+f'(x^{*}) \Delta x + \dfrac{1}{2}f''(x^{*})(\Delta x)^{2}+ \ldots \right ]-f(x^{*}) \\ &=& \dfrac{1}{2}f''(x^{*})(\Delta x)^{2}+\ldots \end{eqnarray*} \]

となる。よってこのような点からの小さなずれは、一次の範囲で近似するとき、関数値になんの影響も与えないことがわかる。

 このことを真の軌道の計算に役立てよう。真の軌道がここにあるとすると、そこから少しだけずれた軌道は一次の近似で、作用に何の影響も及ぼさない。これを示すのは簡単で、もし一次の変化があるとすると、曲線を何らかの仕方でずらしたとき、そのずれに比例する変化が作用に現れることになる。この変化は作用を増加させるだろう。というのも、もしそうでないと最小値ではあり得ないからである。ところが作用に現れる変化が曲線のずれに比例するということは、ずれの向きを逆にすると作用を減少させることになる。つまり、前者の方法では作用が増し、後者の方法では作用が減じるのだから、これが最小値となるためには一次近似において変化がなく、作用に現れる変化がずれの二乗に比例しなければならない。

 そこで求めたい真の軌道を\( \; x^{*}(t) \; \)とおき、この軌道からわずかな量\( \; \theta (t) \; \)だけずれた試行軌道\( \; x(t) \; \)を考えよう。考え方の方針は次のようなものである。試行軌道\( \; x(t) \; \)について作用\( \; S \; \)を計算すると、それと真の軌道\( \; x^{*}(t) \; \)の作用\( \; S^{*} \; \)とのずれは、\( \; \theta \; \)に関して一次近似の範囲でゼロでなければならない。二次の範囲ではもちろん異なるが、一次の範囲では差がゼロなのだ。

 そしてこのことが任意の\( \; \theta \; \)に関して真でなければならない――任意というのは正確さに欠ける。真の軌道と試行軌道は始点と終点が同じなのだった。すなわち\( \; t_{1} \; \)である固定された点から出発し、\( \; t_{2} \; \)で他方の点へと達せねばならないのだった。そうするとずれ\( \; \theta (t) \; \)はその端点でゼロでなければならない:\[ \; \theta (t_{1})=0, \; \theta (t_{2})=0. \; \]

この条件を加味すれば、我々の問題は数学的に明確なものとなった。

 解析の仕方を知らないものは、これを通常の関数\( \; f(x) \; \)の最小値を求めるのと同じやり方で挑むだろう。すなわち\( \; x \; \)にわずかな量\( \; h \; \)を加えたときの、\( \; f(x) \; \)に与える変化が、テイラー展開による一次近似でゼロとならなければならないというふうに議論を進めるのである。実はこれが、いまから微小量\( \; \theta \; \)についてやることである。

 いま作用の公式に\( \; x(t)=x^{*}(t)+\theta(t) \; \)を代入しよう:\[ S=\int \left [ \dfrac{m}{2} \left ( \dfrac{dx}{dt} \right )^{2}-V(x) \right ]dt. \] ここでポテンシャル・エネルギーを\( \; V(x) \; \)とおいた。\( \; dx/dt \; \)はもちろん\( \; x^{*} \; \)の微分係数と\( \; \theta \; \)の微分係数の和だから、作用は\[ S=\int_{t_{1}}^{t_{2}} \left [ \dfrac{m}{2}\left( \dfrac{dx^{*}}{dt}+\dfrac{d\theta}{dt} \right)^{2}-V(x^{*}+\theta) \right ]dt \]

となる。式変形を進めていこう。二乗されている項に関しては\[ \left (\dfrac{dx^{*}}{dt} \right )^{2}+2\dfrac{dx^{*}}{dt}\dfrac{d\theta}{dt}+\left ( \dfrac{d\theta}{dt} \right )^{2} \]を得る。ところがいまは二次以上の項に関心が無いのだから、これらの項を「二次以上」という名前の小さな箱にまとめてしまおう。上式からは二次の項しか得られないが、後にそれ以上の項が現れる。そうすると運動エネルギーの部分に関しては\[ \dfrac{m}{2} \left ( \dfrac{dx^{*}}{dt} \right )^{2}+m\dfrac{dx^{*}}{dt}\dfrac{d\theta}{dt}+(\mathrm{second \;and \;higher \;order}) \]となる。次に\( \; x^{*}+\theta \; \)における\( \; V \; \)を計算しよう。\( \; \theta \; \)を微小だと考えて、これをテイラー級数に展開する。するとこれは大体\( \; V(x^{*}) \; \)に等しく、近似の精度を一段階高めると\( \; \theta \; \)かける\( \; x \; \)に対する\( \; V \; \)の変化率という項が現れる:\[ V(x^{*}+\theta)=V(x^{*})+\theta V'(x^{*})+\dfrac{\theta ^{2}}{2}V''(x^{*})+ \ldots \]\( \; \theta \; \)の二次以上の項は心配する必要がないので、これをまとめて箱に入れてしまう:\[ {\small S =\int_{t_{1}}^{t_{2}} \left [ \dfrac{m}{2}\left ( \dfrac{dx^{*}}{dt} \right )^{2}-V(x^{*}) + m\dfrac{dx^{*}}{dt}\dfrac{d\theta}{dt}-\theta V'(x^{*}) +  (\mathrm{second \; and \; higher \; order}) \right ]dt.}  \]

 さて、上式を注意深く見ると、最初の二項が\( \; S^{*} \; \)そのものであることがわかる。いま興味あるのは作用に現れる一次の変化であるから、これを\( \; \delta S \; \)と記すと、二次以上の箱をとり除いて、\[ \delta S=\int_{t_{1}}^{t_{2}}\left [ m\dfrac{dx^{*}}{dt}\dfrac{d\theta}{dt}-\theta V'(x^{*}) \right ] dt \]

を得る。