着想メトロ

アイデアとは、世界の捉え方を再構成することで新たな価値を獲得し、さらにそれを経験によって持続させる、一連のプロセスのこと。

最小作用の原理(2)――変分という視点

 

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 実際の運動はある曲線――時間を横軸にとって高さ\( \; x \; \)をプロットすればそれは放物線――になり、何らかの積分値をもつ。だがここで、実際の運動とは違い、たとえばより高いところまで到達してその後落下し、もう一度上昇して終点まで辿りつく、奇妙な運動を想定することもできるだろう。このように同じ時間をかけて、同じ始点から出発し、同じ終点へと到着するという条件を満たす軌道には、無数のパターンがある。これらの軌道それぞれに対して、運動エネルギーからポテンシャル・エネルギーを差し引いたものの、道筋上での積分を考えることができる。驚くべきことに、真の軌道が与える積分値は、他のどんな軌道のそれよりも小さいのだ。

 ここでの我々の立場は、実際の運動がどんなものであるかを知らないまま、その動きを予測するというものである。もちろん現在はそれがどんな軌跡を描いて運動するかを、運動方程式を用いてかなりの精度で予想することができるが、そのかわりに別の原理から出発しようとしているのだ。

 このことを確かめてみよう。まずは、ポテンシャルがまったくない状態の自由粒子を考える。すると上述の原理によって、ある点からある点へと同じだけの時間をかけて粒子が運動するとき、各瞬間の運動エネルギーの積分値は最小となるから、それは等速運動でなければらない。それはなぜか。もし他の方法で質点が運動したとすると、その速度はときに平均速度より大きくなり、あるときには小さくなるだろう。しかし始点から終点まで同じ時間をかけて達せねばならないのだから、任意の軌道についてその平均速度は同一でなければならない。

 もしある時間平均速度よりも大きい速度で運動するならば、その分あとである時間ゆっくりと運動しなければならないだろう。というのもあまりに速く進み過ぎるとより早く終点まで到達してしまうからだ。

 実際、始点から終点まで速度の平均をとれば\[ \int_{t_{1}}^{t_{2}} \left ( \dfrac{dx}{dt} \right ) dt=x(t_{2})-x(t_{1})= \rm{co n st}. \]

 たとえば、自宅から車で出発して、ある一定の時間をかけて学校へと到着するのが課題だとしよう。最初思いきり飛ばして、目的地が近付くにつれてブレーキをかけ減速するとか、始めは目的地と反対方向にバックして、しばらくしたら進み始めるとか、これにはいくつかの方法がある。ただその平均速度が、走行した正味の距離と等しくなければならない。さて、等速で始点から終点まで到達した場合、もちろんその平均速度は\[ \bar{v} \equiv \dfrac{x(t_{2})-x(t_{1})}{t_{2}-t_{1}}. \]

 いまこの平均速度からずれた運動、すなわちある軌道\( \; x^{\dagger}(t) \; \)で、\[ x^{\dagger}(t_{1})=x(t_{1}), \; x^{\dagger}(t_{2})=x(t_{2}); \;\;\; \dfrac{dx^{\dagger}}{dt}=\bar{v}+\dfrac{dx_{0}}{dt}\]

なるものを考える。第二の表式の両辺を与えられた時間にわたって積分すれば、\( \; x_{0}(t_{1})=x_{0}(t_{2}) \; \)を得る。よって \[ \begin{eqnarray*} \int_{t_{1}}^{t_{2}}\left ( \dfrac{dx^{\dagger}}{dt} \right )^{2}dt &=&\int_{t_{1}}^{t_{2}}  \left [ \bar{v}^{2}+2\bar{v}\dfrac{dx_{0}}{dt}+\left ( \dfrac{dx_{0}}{dt} \right )^{2} \right ] dt \\ &=& \bar{v}^{2}(t_{2}-t_{1})+\int_{t_{1}}^{t_{2}} \left ( \dfrac{dx_{0}}{dt} \right )^{2}dt \\ &\geq& \bar{v}^{2}(t_{2}-t_{1})=\int_{t_{1}}^{t_{2}}\bar{v}^{2}dt. \end{eqnarray*} \]

すなわち平均速度からずれた運動の平均運動エネルギーは、必然的に等速運動の場合よりも大きくなることがわかる。よってこの等速運動のとき、その積分値は最小となる(力が働らいていないことに注意)。

 物体を重力場中に投げ上げると、始めは速く上昇するものの、徐々に速度が落ちてくる。これはポテンシャル・エネルギーがあるからで、最小作用の原理より運動エネルギーとポテンシャル・エネルギーとの差が平均において最小にならなければならない。上方ではより大きなポテンシャル・エネルギーが得られるから、差の平均を小さくするためにではできるだけ早く上に向かわねばならない。こうすればマイナスの項(ポテンシャル・エネルギーに対応する項)が増えて差が小さくなるわけだ。

 とはいうものの、速すぎたり、または遠くに行きすぎたりしてもいけない。それには多量の運動エネルギーが必要だからで、離れ過ぎると、同じ時間の内に多くの距離を走行することになるから、より素早く運動しなければならず、よってより大きな運動エネルギーが必要となる。すると差に影響を与えるプラスの項(これは運動エネルギーに他ならない)が大きくなってしまう。あまり遠出はできないものの、できるだけ高いところには行きたいわけで、現実の軌跡は、より多くのポテンシャル・エネルギーを得ることと、余分な運動エネルギー(運動エネルギーからポテンシャル・エネルギーを取り去った余り)を出来る限り小さくすることの、妥協点となっている。

「以上が、私の先生の教えてくれたすべてです。彼はとても良い教師でしたから、どこから先を話さずにおくべきか分かっていたのです。私はそうではないから、これを『不思議で興味深い発見』で終わらせるかわりに、『証明』という世の中の複雑さを君たちに教え、ぞっとさせてあげましょう。この数学的問題はとても難しく、また新しい種類のものです。作用\( \; S \; \)と呼ばれる量があって、これは運動エネルギー(KE)引くポテンシャル・エネルギー(PE)を時間にわたって積分したものです:\[ \mathrm{Action}= S =\int_{t_{1}}^{t_{2}}(\mathrm{KE}-\mathrm{PE})dt. \]

PEとKEはどちらも時間の関数だということを覚えておきましょう。可能な各軌道に対して異なる作用の値が得られるということになります。これを数学的問題におき直せば、この数値を最小にする曲線を探しだす、ということになるでしょう。ここで『ああ、これって普通の極大・極小問題じゃないか。作用を計算して微分すればいいだろう』と言う人がいるかもしれませんがよく見て下さい。通常は、ある変数の関数があって、この関数の最大または最小値を与える変数を求めるでしょう。たとえば、ここに中心を熱された棒があるとすると、熱は次第に端へと拡散します。棒の各点にある温度が対応していて、この温度が最も高い点を探すわけです。しかし今私たちが対しているこの問題では、空間内の各軌道にひとつの値が対応しているのです。これは土台異なる話でしょう。そうしてこの値を最小とするような空間内のある特定の軌道を求めなければならないのです。これは通常の微積分学とその分野をまったく異にするものです。実際、これは変分法と呼ばれる領域なのです」