着想メトロ

アイデアとは、世界の捉え方を再構成することで新たな価値を獲得し、さらにそれを経験によって持続させる、一連のプロセスのこと。

言葉は思考する(六)――銀ナノ細線によるバクテリアの撲滅

 今回もHuffpostから、病原性バクテリアを死滅させるのに有効な素材が開発されたという記事である:

Bactéries infectieuses : Un nouveau tissu antibactérien serait capable de les détruire en seulement 10 minutes

 病原性バクテリアは、薬剤投与に対して耐性をもつことがわかっている。人類の薬剤開発とバクテリア(またはウイルス)の進化は、壮絶ないたちごっこを演じているのである。国によっては医療機関の処方箋が的確でないせいで、耐性バクテリアの増殖を助長してしまうということも起きている。

 薬剤投与量には適量というものがあって、多すぎても少なすぎてもいけない。バクテリアの耐性獲得率を最低にするよう投与量を最適化する研究が世界中で進められていて、その中にはもちろんヒトではなく、たとえば家畜の間で伝染する病原菌に対する研究も進められているわけだ。そこで病原菌を素早く死滅させることが課題となる。銀元素のバクテリアに対する強力な毒性を利用した「殺菌繊維」の開発が、今回の記事の内容である。今後は人体への安全性を確かめなければならないだろう。

 Ⅰ Pouvoir tuer des bactéries en l'espace de seulement dix minutes? Cette prouesse sera bientôt possible grâce à la découverte d'une équipe de chercheurs de l'Institut Royal de Technologie de Melbourne (ou RMIT University) en Australie.

1-1. ESPACE(étendue de temps)に注意。空間的拡がりのみではない。EN L'ESPACE DE (時間)で「(時間)の間に」という意味。

1-2. PROUESSE(action d'éclat, action remarquable)だから「快挙、偉業」くらいの意味になるだろう。ときに皮肉で用いられる(e.g. Certains se sont levés avant l'aube en guise de prouesse)。「オーストラリア、RMIT大学の研究チームの成果により、バクテリアをわずか十分で死滅させることが、近い将来可能になる」。直説法単純未来seraで言いきってしまうところに多少の違和感がある。後に明らかになるが、まだ人体への危険性の有無については十分実証されていないからだ。

Ⅱ La clé pour venir à bout du problème des bactéries infectieuses est l'Argent, un élément chimique jouant un rôle important dans le développement de matériaux antimicrobiens. Il est notamment utilisé par un grand ensemble de matériaux du quotidien comme les claviers d'ordinateurs, les systèmes de filtration d'eau ou encore des machines à laver afin de repousser les germes.

2-1. ETRE, VENIR A BOUT DE(ne plus avoir de)に注意。boutというのは「端」という意味だから、そこから「物事の終わり、決着」という意味も生まれる。ここでは「病原性バクテリアの問題に悩まされることがなくなる」、すなわち「問題が解決する」ということ。「病原性バクテリアに関する諸問題を解決する鍵となるのは、抗微生物材の開発において重要である化学元素、すなわち銀である」。

☞infectieuxは「感染する」という意味の形容詞だが、あらゆる感染性のバクテリアが人体に有害であるとも限らないので、ここでは「病原性」すなわち人体に害を及ぼす感染性のバクテリアというふうに解釈した。

2-2. REPOUSSER(pousser qqch en arrière, faire reculer loin de soi; ne pas accueillir)という説明をみるとわかるように、「病原菌(の発生)を食い止める、抑える」という意味。これは「押されている方向とは逆に押し返す」ことを意味する語であって、方向が同一ではないことに注意しよう。

2-3. GERME(micro-organisme (virus, bactérie, protiste) capable d'engendrer une maladie)とあるので、病気の原因となる微生物(ウイルス、バクテリア、原生生物など)。つまり人体にとって有害だから「病原性の微生物」ということになる。この語の元の意味と比較すると、おもしろい派生である。「銀は電子計算機器のキーボードや、水の濾過装置、洗濯機のような日用品の大部分に、病原菌の発生を抑える目的で使用されている」。

Ⅲ Les chercheurs de la RMIT University et membres du CSIRO (Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation) ont donc conçu un tout nouveau tissu antibactérien constitué de nanofils, de petits filaments aux propriétés révolutionnaires dans plusieurs domaines technologiques, à l'intérieur desquels est intégrée une solution d'Argent-tétracyanoquinodiméthane.

3-1. FILAMENT(production organique longue et fine comme un fil; structure en forme de fil)とあるが、ここは後者の意だろう。ただし第一義に、「有機体」の作りだす糸状のもの、とあることに注意。文章の構造は複雑ではないが、専門用語が少なからずある。全訳をつけておく。なお、ここではフィラメント=ナノ細線である。「(前略)は、多くの工学分野において革新的特性を有する細かなフィラメント、ナノ細線の内部に、銀-テトラシアノキノジメタン溶液を染み込ませたものを織り込んだ抗菌繊維を新たに考案した」。petitsはfinsで置き換えた方がよいだろう。

Ⅳ Cette association redoutable nanofils-Argent pourrait être intégrée dans beaucoup de matériaux, comme le coton ou le nylon, et permettre de vaincre des bactéries infectieuses telle que E.Coli, une bactérie intestinale très présente chez l'Homme, en seulement dix minutes.

4-1. ASSOCIATION(action d'associer, de s'associer; résultat de cette action)なのでここでは「組み合わせ」という意味。

4-2. REDOUTER(craindre comme très menaçant)だから「脅威として恐れる」。そこからREDOUTABLEは「恐るべき」という意味になる。「ナノ細線-銀という恐るべき組み合わせ」。「銀を組み込んだこの強力なナノ細線は、綿やナイロンなど多くの素材へと織り込むことができるうえ、ヒトによく見られる、腸内細菌の一種大腸菌のような病原性バクテリアを、十分足らずで駆逐できる」。

☞Hommeと大文字で書き出すのはêtre humainという意味を強調するため。そこで「ヒト」と訳した。

Ⅴ "Nous avons pris un T-shirt et l'avons plongé dans la solution d'argent dans certaines conditions contrôlées pour activer les nanofils. Cela a ensuite tué les bactéries dans les dix minutes après avoir été exposé à ces organismes.", explique Vipul Bansal, professeur agrégé à l'Institut Royal de Technologie de Melbourne en sciences appliquées et leader des recherches, au site Gizmag.

5-1. DANS LES(marquant l'approximation)だからここでは「大体」十分で、という意味で、A PEU PRESで置き換え可能な表現である。

☞数量表現に定冠詞複数形がつくこの表現が、「概数」というニュアンスを含む事実を説明するのはなかなか難しい。単にdix minutesと言った場合、une minuteという単位が十個分堆積してできた塊としての「十分」を指すのに対し、定冠詞複数形をつけるとこのminuteを個別に捉えていることになる。つまり合計十分である個別のminuteの集まりを意識しているのだと考えられる。ばらばらになっているということは、再構成するときにある程度の可塑性を許すということではないか。少々無理があるようだが、いずれにしても、複数形冠詞を付与するときは、名詞に「個別化」という作用を及ぼすことを覚えておこう。

5-2. ORGANISME(ensemble des organes qui constituent un être vivant; ensemble organisé)とあるから「有機体」すなわち「構成要素が有機的に結びついてできる機構」を指す語である。ここでこのces organismesとはbactériesのことを指すのか、それともnanofilsを指すのか、という問題が生じる。細胞からなる有機体としてのorganismesなら、ここは前者だと解釈するのが妥当なように思われる。ただ「バクテリアが銀溶液に浸したナノ細線にさらされる」という文は意味が通るのに対し「ナノ細線がバクテリアにさらされる」という文には違和感がある。というのも通常EXPOSE Aという表現は「(害のあるものに)さらされる」というニュアンスをもつからで、バクテリアにとって銀が脅威であることは頷けても、逆の関係は明らかに成り立たないだろう。そこでここではnanofilsを指すと解釈できる。では、なぜorganismeという語を使ったのか。これには二つの考え方がある。まず、ある種のナノ構造は、自己組織的に(つまり人為的な外からの作用無しで、自律的に組織化すること)自身を構築するという事実を考慮すると、これらのミクロな構造体には、生体を構成する機構に似た一面もあるということになる。そこで本来はナノ細線を生成する過程にまで踏み込まなければならないが、ここではそういった「有機体もしくは生体」に見られるような物理的特性と、その発生過程を加味したうえでのorganismeだと解釈することで満足しておく。そして第二に、これはナノ細線のみを指すのではなくて、「ナノ細線と銀溶液が有機的に組み合わさったもの」だと捉えているから、と考えることもできる。

Ⅵ Ce tissu antibactérien s'annonce même prometteur en terme de longévité selon le Pr Bansal : "Notre approche implique une dissolution lente des nanofils, qui travailleront à prolonger la vie de la matière. Dans nos études, nous avons observé qu'après l'immersion du tissu dans la solution, les ions d'Argent responsables de l'éradication des bactéries étaient encore libérés après cinq jours", confie-t-il à Gizmag.

6-1. S'ANNONCER(apparaître comme devant prochainement se produire)なので「近い将来のある姿・状況を予期・期待させる」ということ。ÇA A'ANNONCE BIEN [MAL]という表現も頻出である。

6-2. EN TERMES DEという用語は「ある特定の分野の専門用語で言うと」という意味だが、ここでは意味が合わないし、そもそもtermeが単数形になっている。これは英語から入って来た(in termes of)意味で、批判されている使用法である。言い換えるならば、EN CE QUI CONCERNEDU POINT DE VUE DEなどが無難だろう。以下のページも参照のこと:En termes de - PARLER FRANÇAIS

「Bansal教授によるとこの抗菌繊維は持続性の面でも期待できるそうだ」。

6-3. 基本名詞の意味を確認しておこう。

-LONGEVITE(durée de la vie),

-DISSOLUTION(décomposition d'un organisme par la séparation des élements constituants),

-IMMERSION(action de plonger dans un liquide),

-ERADICATION(suppression totale d'une maladie endémique; d'une espèce animale responsable de la transmission d'une maladie)。

名詞は無数にある。焦らずゆっくりと、なるべく具体的な状況と絡めながら吸収していこう。「我々のアプローチではナノ細線がゆっくりと溶解するので、素材の寿命が長くなる。研究によって、生地を銀溶液に浸して五日経っても、バクテリアを死滅させる銀イオンの存在が観察された」。

☞Prはprofesseurの略である。

Ⅶ Quoi qu'il en soit, aux yeux de Vipul Bansal, cette trouvaille recèle un potentiel d'envergure en milieu hospitalier pour endiguer les infections nosocomiales grâce à une application sur le linge de lit antibactérien ou encore les tabliers chirurgicaux.

7-1. QUOI QU'IL EN SOIT(en tout état de cause, de toute façon, n'importe comment)だから「いずれにせよ」という意味。頻出であるQUOI QUE(接続法)という表現もチェックしておこう。譲歩を表す表現で「何を~しようとも」。一種の倒置表現であると考えられる。

7-2. 再び語彙の確認である。

-RECELER(garder, contenir en soi), 「内包する、隠し持つ」、

-TROUVAILLE(fait de découvrir une idée, une image, etc. par l'esprit et d'une manière heureuse; idée originale, intéressante), 「思いがけない発見、独創的な発想」、

-ENVERGURE(ampleur, ouverture, étendue), 「器量、豊かさ、広がり」、

-ENDIGUER(retenir, réprimer un courant, une force à déborder), 「抑制する、食い止める」、

-NOSOCOMIAL(qui se rapporte à l'hôpital),

-CHIRUGIE(partie de la thérapeutique médicale qui comporte une intervention manuelle avec des instruments, aidée d'appareils(laser, robot...)) 「外科」。

「(前略)この発見は、医療現場において多くの可能性を秘めている。寝具用抗菌布類や手術衣などへの応用により、院内感染を食いとめることもできる」。

Ⅷ Mais pas seulement. Ces nanofils révolutionnaires trempés dans une solution d'Argent pourraient permettre de produire des pansements antibactériens, garantissant une éradication totale des bactéries dans la plaie ainsi qu'une guérison plus rapide.

8-1. 「それだけではない。銀溶液に浸されたこの革新的ナノ細線は、傷を手当てするもの(包帯やガーゼ、絆創膏など)へ抗菌要素として活用でき、傷口のバクテリアを完全に死滅させることによって、早期の治癒を可能にする」。

Ⅸ Néanmoins, les chercheurs tiennent à rappeler qu'ils vont désormais porter leur attention sur la sécurité du matériel : "Nous avons établi que les nanofils sont toxiques pour les bactéries. Notre prochaine étape est de tester la toxicité contre les cellules humaines.", affirme le Pr Bansal.

9-1. TENIR A(vouloir absolument)。ここでは「強調しておきたい」くらいでいいだろう。

9-2. 「研究チームは今後、素材の安全性に焦点を当てていくことを強調する。『バクテリアに対してナノ細線が有害であることは立証されました。そこでヒト細胞に対する毒性を研究することが次のステップになります』」。