着想メトロ

アイデアとは、世界の捉え方を再構成することで新たな価値を獲得し、さらにそれを経験によって持続させる、一連のプロセスのこと。

有限次元ノルム空間の完備性

 有限次元ノルム空間\( \; X \; \)の次元を\( \; n \; \)とし、基底の一つ\( \; \{ \phi_{j} \}_{j=1,2,\ldots,n} \; \)をとると、任意の\( \; u \in X \; \)は\[ u=\sum_{j=1}^{n} \; \alpha_{j} \phi_{j}, \;\;\; \alpha_{j}\in \mathbb{C} \]

というふうに表せる。

 有限次元ノルム空間は完備であることを示すのが目標である。

  いま\( \; X \; \)の本来のノルム\( \; \| \cdot \| \; \)とは別に、ノルム\( \; |||\cdot||| \; \)を任意の\( \; u \in X \; \)に対して\[ |||u||| \equiv \max{|\alpha_{j}|} \]

で定義する。

 流れとしては、(1)\( \; X \; \)がノルム\( \; |||\cdot||| \; \)に関して完備になることを示し、その次に(2)\( \; X \; \)の任意の二つのノルムが実は同値であることを示す。そうすれば任意のノルムに関して\( \; X \; \)が完備であることが示される。

 ではまず(1)を証明する。\( \; u_{k}=\sum_{j=1}^{n} \; \alpha_{j}^{(k)}\phi_{j} \in X \; \)が\( \; X \; \)のCauchy列であると仮定すると、任意の\( \; \varepsilon >0 \; \)に対して\( \; k_{0} \; \)があって\[ k, \; k'>k_{0} \Longrightarrow |||u_{k'}-u_{k}|||<\varepsilon \]

が成り立つ。ところで\( \; |||\cdot||| \; \)の定義によって、任意の\( \; j=1,\; 2, \ldots , n; \; k, \; k'=1, \; 2, \ldots \; \)に対して\[ |\alpha_{j}^{(k')}-\alpha_{j}^{(k)}| \leq |||u_{k'}-u_{k}||| \]

だから結局任意の\( \; \varepsilon >0 \; \)に対して\[ k, \; k'>k_{0} \Longrightarrow  |\alpha_{j}^{(k')}-\alpha_{j}^{(k)}| < \varepsilon ,\]

すなわち数列\( \; \{ \alpha_{j}^{(k)} \} \; \)は任意の\( \; j \; \)に対して\( \; \mathbb{C} \; \)のCauchy列であるから、\( \; \mathbb{C} \; \)の完備性によって収束する。この極限を\( \; \alpha_{j} \; \)とし、\[ u= \sum_{j=1}^{n} \; \alpha_{j}\phi_{j} \]

とおくと明らかに\( \; u \in X \; \)である。また各\( \; j \; \)に対して\( \; \alpha_{j}^{(k)} \longrightarrow \alpha_{j} \; \)であることにから、任意の\( \; \varepsilon >0 \; \)に対してある\( \; k_{j} \; \)があって、\[ k>k_{j} \Longrightarrow |\alpha_{j}-\alpha_{j}^{(k)}|<\varepsilon \]

が成り立つ。そこで\( \; k_{0}=\max{k_{j}} \; \)とおけば任意の\( \; \varepsilon >0 \; \)に対して\[ k>k_{0} \Longrightarrow \max_{j} |\alpha_{j}-\alpha_{j}^{k}| = |||u-u_{k}|||<\varepsilon \]

となる。よって\( \; |||u-u_{k}||| \longrightarrow 0 \; \)かつ\( \; u \in X \; \)であるから\( \; X \; \)がノルム\( \; |||\cdot||| \; \)によって完備になることが示された。

 次に(2)の証明に移るが、その前に二つのノルムが同値であるとはどういうことか、その定義を示しておく。

 ノルム空間\( \; X \; \)の二つのノルム\( \; \|\cdot\|_{1}, \;\; \|\cdot\|_{2} \; \)が同値であるとは、正数\( \; c_{1}, \; c_{2} \; \)を適当にとれば、任意の\( \; u \in X \; \)に対して\[  c_{1}\|u\|_{1} \leq \|u\|_{2} \leq c_{2}\|u\|_{1} \]

が成り立つようにできることである。この定義によって、二つの同値なノルムに関する\( \; X \; \)の位相的性質、特に完備性は一致する。よって\( \; X \; \)の任意のノルム\( \; \|\cdot\| \; \)とノルム\( \; |||\cdot||| \; \)が同値であることが示されれば、任意の二つのノルムが同値であることが示されたことになる。そこで任意の\( \; u \in X \; \)に対して\[ (*) \;\;\; c_{1}\|u\| \leq |||u||| \leq c_{2}\|u\| \]

を成り立たせるような正数\( \; c_{1}, \; c_{2} \; \)の存在を示す。

まず\[ \|u\| \leq \sum_{j=1}^{n} \; |\alpha_{j}|\|\phi_{j}\| \leq \max_{j}|\alpha_{j}|\sum_{j=1}^{n} \; \|\phi_{j}\| = |||u|||\sum_{j=1}^{n} \; \|\phi_{j}\| \]

であるから\( (*) \)において\( \; c_{1}=( \; \sum_{j=1}^{n} \; \|\phi_{j}\| \; )^{-1} \; \)とすればよい。

以下、\( (*) \)における右側の不等式が成り立たないと仮定して矛盾を導く。すると任意の\( \; k \; \)に対して、ある\( \; u_{k}' \in X \; \)が存在して\[ |||u_{k}'||| > k\|u_{k}'\| \]

が成り立つ。いま\( \; u_{k}=u_{k}'/|||u_{k}'||| \; \)とおけば明らかに\( \; |||u_{k}|||=1 \; \)で,

任意の\( \; k \; \)に対し\[ \|u_{k}\|=\|u_{k}'\|/|||u_{k}'|||<1/k \]

となっている。このような\( \; u_{k} \; \)を基底を用いて\[ u_{k}=\sum_{j=1}^{n} \; \alpha_{j}^{(k)}\phi_{j} \]

と表せたとしよう。すると\( \; |||u_{k}|||=1 \; \)より任意の\( \; k, \; j \; \)に対して\( \; |\alpha_{j}^{(k)}| \leq 1 \; \)でなければならず、さらに各\( \; k \; \)に対して少なくともひとつある\( \; j \; \)があって、\( \; |\alpha_{j}^{(k)}|=1 \; \)となっているはずである。そこで番号を適当につけかえて\( \; X \; \)の点列\( \; \{ u_{k}=\sum_{j} \; \alpha_{j}^{(k)}\phi_{j}; \;\;\; k=1, \; 2, \ldots \} \; \)が\[ \forall k, \; j; \;\;\; |\alpha_{1}^{(k)}|=1, \;\;\; |\alpha_{j}^{(k)}| \leq 1 \]

をみたすようにできる。そこで\( \; \alpha^{(k)} = (\alpha_{1}^{(k)}, \ldots, \; \alpha_{n}^{(k)}) \; \)を\( \; \mathbb{C}^{n} \; \)上の点列とみればこれは有界列であるから、Bolzano-Weierstrassの定理によって収束する部分列をもつ。これを\( \; \{ \alpha^{i_{k}} \} \; \)とし、その極限を\( \; \alpha =(\alpha_{1}, \ldots, \; \alpha_{n}) \; \)、さらに\( \; u \in X \; \)を\[ u=\sum_{j=1}^{n} \; \alpha_{j}\phi_{j} \]

とおいてみる。そうすれば明らかに\( \; |||u-u_{i_{k}}||| \longrightarrow 0 \; \)であり、すでに証明済みである\( (*) \)左側の不等式から\( \; \|u-u_{i_{k}}\| \longrightarrow 0 \; \)となることがわかる。したがって\[ \|u\| \leq \|u-u_{i_{k}}\|+\|u_{i_{k}}\|<\|u-u_{i_{k}}\|+\dfrac{1}{i_{k}} \longrightarrow 0 \]

となって、\( \; u=0 \; \)が導かれるが、\( \; |\alpha_{1}|=1 \; \)であるからこれは明らかに矛盾である。こうして\( (*) \)の右側の不等式を任意の\( \; u \; \)に関して成り立たせるような正数\( \; c_{2} \; \)の存在が示された。

以上(1),(2)によって、有限次元ノルム空間は完備であることがわかった。