着想メトロ

アイデアとは、世界の捉え方を再構成することで新たな価値を獲得し、さらにそれを経験によって持続させる、一連のプロセスのこと。

風は立っているか

 「想像力は十年しか続かない」、この台詞をきいたとき、ああこれは宮崎監督自身のことなのだな、と感じた。これが彼の最後の映画だというメッセージなのだろう。

 一人の人間の人生を描くことは最も難しいテーマ。それに挑戦したのがこの「風立ちぬ」であった。主人公の思考のひとつひとつを「夢」にたとえて見事に描写していた。

 また、機械の音、地震による地響きなどに、人間の肉声を用いていたのもよかった。終始ゆったりとしたリズムで、夢の中のまどろみに居る心地にさせる。すべてが風のように過ぎ去ってしまう。人の人生が風のように過ぎ去っていく。風が立っているうちは、生きなければならない。風は立っているか。

  この言葉は生きることそのものを象徴的に言い表す。人生とは「問い」そのものであり、またその問いは風のように運ばれて消え失せる。そしてその風はあらたな問いを生み、その問いは新たな風を生むのだ。人の生とは、問いかけることの連鎖である。先立つ者が送る風、それを受けて問いかける残された者。その連鎖が人の営みなのだということ。風のように爽やかで軽やかな映画だった。

 

風立ちぬ [DVD]

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